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第1話

入り口
79
2018/09/07 04:42
照りつける太陽が、じりじりと暑い。
日除けの麦わら帽子も、塗りたくった日焼け止めも、何も意味がないのではと思ってしまうほどに暑い。
人でごった返した商店街は、恐らく通常よりも数度気温が高くなっているだろう。
前を歩く母と妹は、先程芸能人と遭遇した時の熱が収まらないのか、楽しそうに話しながら、暑さなんて気にせずに歩いている。
「はぁ…」
私はため息を溢した。
これだけの猛暑だ。ため息くらいでるだろう。

と。この風景にそぐわない、かなり目立つ奇妙な物体が目に飛び込んできた。
扉だ。扉本体は奇妙ではない。置かれた場所が奇妙なのだ。
道のど真ん中である。
あの秘密道具をだすロボットの漫画。あれに登場する、あらゆる場所を自由自在に行き来できる万能扉。
まるであれのようだ。
その真っ白な扉は、誰が見ても奇妙なはずなのに、皆そんなもの見えていないような、いや、見えてはいるようだ。
避けて通っているのだから。
視認はしているが、そこにあるのが当たり前のような、そんな風にその場所を通り過ぎて行く。
私はその扉から、目を離せなかった。
気になって、仕方がなかった。
開けたって、商店街の先の道が見えるだけだろう。
わかっているのに、開けたいという衝動に駆られて、私は扉に近づいた。
猛暑により汗ばんだ手をおもむろにワンピースで拭い、ドアノブに手を伸ばす。
ガチャン
音を立てて、扉が開いた。

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