第6話

君の願い
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2018/09/16 02:51
「僕には、言えないもの?」
黙っている私に、凪くんはそう続けた。
私は彼から目をそらして、唇を噛んでいた。
大切なものを口に出してしまったら、それを失う運命が、決定されてしまう気がしたから。
「…千代、何も言わなくていい。ただ聞いてくれればいい」
彼のその前置きと低くなった声音に、私は違和感を感じて顔を上げた。
「僕は、もうじき死ぬ」
「…………ぇ」
言葉の意味を理解するのに、数秒時間を要した。
「もう数時間と持たないだろう。
そうしたら、君を助けられなくなる」
凪くんのその言葉に、私は軽いめまいを覚える。
信じられない。
嘘だと言って。
その思いの全てを言葉にできなかったのは、彼が嘘を吐いているようにはとても見えなかったからだ。
「1つ、頼みがある。酷く自分勝手な頼みだ。
それを知りながら君にすがる僕を、どうか赦してほしい」
彼は、その翡翠色の瞳で私を真っ直ぐ見据えて言った。

「時間まで、僕と一緒にいてほしい」

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