当主の声が辺りに響いた。
酒臭い匂いが鼻に入り込む。
むせ返る匂いに、空気に嫌気が差した。
この匂いも、この空気も、
怖気付いて何も言い返せない私も、
____全部、大嫌いだ。
一度くらい他人の前で自分の思う事を
言ってみたい。
恐怖も、嫌悪も、
全てを薙ぎ払って晒し出して。
失う物は何も無い。
リオが居なければ、私はどうなろうが
私の知った事では無い。
_____
___
ずっと、怖かった。
私が何かを言う事で、離れて行ってしまう事が。
存在を失くされ、捨てられる事が。
でも、そんな事をされても怖くない。
欲張るんだ。
ずっと言えなかった事を全て吐き出す。
私に足りなかった物。
___もっと、欲張って良いんだよ?
リオの言葉が頭の中で響く。
私にだって、意地はある。
その瞬間、当主の顔には完全なる怒りが現れ、
花音さんが叫んだ。
それがゆっくりと見える。
掴みかかって来た当主ですらもゆっくりと。
それを避けずに受け入れる。
逃げようとなんか思わない。
どうなっても構わない。
脳が揺れるような強い衝撃を感じた後、
私の視界は暗転した。
いっその事、殺してくれれば良かったのに。
そんな呟きも濃い闇の中に吸収され、
消えて行った。
リオに会いたい。
寂しい、悲しい。
リオが居なくなってからは、
心に穴が空いたような感覚がずっと付きまとっていた。
その穴を埋めてほしい。
そんな事を叶えてくれる人は
いるのだろうか。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。