薄らと目を開けた先には花音さんが居た。
こちらを覗き込むその目には
心配の色が滲んでいる。
素直に謝罪の言葉が漏れた。
やはり、花音さんとリオは似ている。
雰囲気も、顔も、
どことなく同じ感じがする。
そう言った後に花音さんは
私に笑い掛けた。
私は思った事を言っただけなのに。
でも、不快には思わなかった。
得体の知れない感情が私の心を満たす。
リオの死で抜けたモノが私に戻って来たような。
ちゃんと、笑える。
作り物ではない笑顔が、心の底から。
___ありがとう
その言葉の中には
看病をしてくれていた事に対する物と、
無くしかけていたものを
思い出させてくれた事に対する物が詰まっていた。
_____
___
その言葉が嬉しかった。
今日初めて会ったばかりの私に、
そこまで行ってくれる事が何よりも嬉しい。
迷いは無かった。
畳に手を付き花音さんに向かって
頭を下げる。
その言葉と共に私は一つ決めた。
天の呼吸を継ぐにあたって。
もう、「雨夜」では居られないと。
当主様を怒らせ、リオももう居ない。
でも、リオの事を完全に無くしたくはない。
「天ヶ瀬」
三度目に変えたこの苗字は花音さんと共に考えた。
決意も、後悔も、思い出も、
全てが詰まった苗字だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。