雨夜家の本家に足を運んだのは久しぶりで、
記憶の中の物とは随分と変わっていた。
数分ほど屋敷の周りを歩き、
正門を見つける。
戸を開ける事自体は簡単なはずなのに、
中々、手が進まない。
少しの間、門の前で立ち尽くしていると
後ろから声を掛けられた。
一目でこの家の関係者だろうと思った。
リオに雰囲気が似てる。
乾き切った喉から何とか、声を絞り出した。
リオの妹___。
そう言われるとしっくり来る。
リオの面影を残す彼女は、
リオと比べるとまだ、あどけなく見えた。
そう言って頭を下げると地面が目に入った。
目頭が熱い。
涙を我慢するのに精一杯だった。
溢れる寸前だった涙はその言葉を聞いて、
とうとう流れ出してしまった。
花音さんは私に近付いて優しく抱きしめた。
リオと同じ匂いが鼻を掠める。
懐かしい匂いに涙腺がより刺激された。
優しくて、暖かい___。
リオが死んで以来、
満たされる事が無かった物が私を満たす。
固く毛羽立っていた心が暖かい物で満たされて行くのを
静かに噛み締めていた。
ーーーーー
不意に肩を掴まれ、花音さんから離された。
強く掴まれた肩がズキズキと痛む。
花音さんの呟きから、全てを察した。
この目の前にいる男こそがリオと花音さんの父であり、
雨夜家の当主である、と。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。