第29話

☔️ 暄暖の雨
403
2023/01/03 10:25





(なまえ)
あなた
……ここ、か



雨夜家の本家に足を運んだのは久しぶりで、
記憶の中の物とは随分と変わっていた。


数分ほど屋敷の周りを歩き、
正門を見つける。


戸を開ける事自体は簡単なはずなのに、
中々、手が進まない。




少しの間、門の前で立ち尽くしていると
後ろから声を掛けられた。




??
どうされましたか?



一目でこの家の関係者だろうと思った。
リオに雰囲気が似てる。


乾き切った喉から何とか、声を絞り出した。


(なまえ)
あなた
鬼殺隊、雨夜あなたと言います
雨夜リオさんの訃報はお聞きになっているでしょうか
??
っ姉様の……
(なまえ)
あなた
姉様……?
??
失礼しました
私、雨夜梨音の妹の雨夜花音カノンと申します


リオの妹___。



そう言われるとしっくり来る。


リオの面影を残す彼女は、
リオと比べるとまだ、あどけなく見えた。


雨夜 花音
雨夜 花音
姉の訃報は聞いております
ここまで足を運んで頂きありがとうございました
(なまえ)
あなた
いえ、一緒に居たにも関わらず
リオさんを救えなかった事、申し訳ありませんでした


そう言って頭を下げると地面が目に入った。
目頭が熱い。


涙を我慢するのに精一杯だった。


雨夜 花音
雨夜 花音
謝らないでください
貴方の事はいつも姉様から聞いておりました
雨夜 花音
雨夜 花音
いつも楽しそうに話して幸せそうなに見えましたよ?



(なまえ)
あなた
っありがとう、ございます……



溢れる寸前だった涙はその言葉を聞いて、
とうとう流れ出してしまった。




花音さんは私に近付いて優しく抱きしめた。
リオと同じ匂いが鼻をかすめる。



懐かしい匂いに涙腺がより刺激された。
優しくて、暖かい___。




リオが死んで以来、
満たされる事が無かった物が私を満たす。



固く毛羽立っていた心が暖かい物で満たされて行くのを
静かに噛み締めていた。








ーーーーー











??
何をしている!?花音から離れろッッ



不意に肩を掴まれ、花音さんから離された。
強く掴まれた肩がズキズキと痛む。


雨夜 花音
雨夜 花音
お、お父様……


花音さんの呟きから、全てを察した。




この目の前にいる男こそがリオと花音さんの父であり、
雨夜家の当主である、と。











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