童磨が去って行くのを呆然としながら
見送った。
避難が完了していたのか
辺りに人気は無く、静かだった。
今までにあった事が本当に起きていた事だったのか
そう疑ってしまう程に静まり返っている。
背中に被さっているリオを
ゆっくり下ろして声を掛ける。
血色が悪く肌の色はくすんでいた。
みぞおちにはっきりと穴が空いていた事だけは
鮮明に記憶された。
「ありがとうと」とか「ごめんね」とか
言えれば良かったのに。
私の口から出たのはリオを
問い詰めるような言葉だった。
謝ってほしくないのに、
無理をしてほしくなかっただけなのに、
どうして言葉を選び間違えてしまうのだろう。
思っている事がそのまま伝わればいいのに。
目の前が真っ暗になった。
治せないって事は
リオは死んでしまうって事に値するから。
その出血量じゃ無理だって。
死んじゃうって。
リオに触れている部分が冷たくなっていく。
私がいくら手を強く握っても
冷えて行いくばかりだった。
何も言わずに聞いておくことにした。
私が話してもきっとリオを傷付けてしまう。
だからリオの話を聞こうって
そう思えた。
成し得なかった事?
尋ねようとしても話は次に移ってしまった。
指先まで力を込めてそう伝える。
笑えているかな、泣いていないかな。
一生懸命口角を上げて返した。
今度はちゃんと笑えた気がした。
精一杯の「ありがとう」を伝えられた。
___うん
そう言ったリオの瞳には薄く
透明なもので覆われていた。
___泣かないでよ、リオ
そう笑みを崩さないまま話し掛ける。
リオの体温が僅かにでも感じられるその時まで
___ずっと抱きしめていた。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。