父さんの手の中にある鏡のフレームは、記憶よりも少しだけ小さく見えた。
けれど、埃がついていたりすることも、よごれがついていることもなく、大切にされていたことが分かる。
そう言って、父さんはフレームを指先で優しくなぞると、こちらに差し出してくる。
そんな謝罪と共に。
思わず聞いてしまった言葉は、すぐに強く否定された。
そして、ぎゅっと強く抱きしめられる。
声が震えている。
抱きしめられた温もりが久しぶりで、気づけば父さんの腕にすがっていた。
本当はこうして泣きたかったのかもしれない。母さんがいなくなって、俺も父さんも縋る先が欲しかったのかもしれない。
寂しかった。悲しかった。苦しかった。
少し間違えてしまったけど。ちょっと遅くなってしまったけど。
これからはそれを共有して、少しずつ、分かり合えたらいいな。
ひとしきり泣いた後、俺は目を真っ赤にしたまま父さんを見た。
頷いた父さんの目も、少し赤かった。
父さんから受け取ったフレームに、回収してきた鏡の破片をはめていく。そして、さいごの一つをはめたその時、鏡がふわりと光を放った。
その眩しさに一瞬目を閉じて──そして次に開くと。
そこにあったのは、母さんからもらった手鏡そのものだった。
そっと鏡のヒビをなぞる。
ただ置いただけで接着剤も使ってないのに、まるでぴたりとくっついているかのように動かない。
横から覗き込んできた父さんが、つぶやく。
鏡月が説明してくれたことを思い出す。
俺に、そしておばあさんに、お兄さんに話していた付喪神のこと。
水先が伝えてくれた言葉も。
鏡越しに、父さんが見える。
その父さんの目は、昔の様に優しかった。鬼みたいな顔じゃない。
俺が、勝手にそう見ていたんだ。勝手に、父さんを鬼にしていたのは、俺の方だった。
お礼を言うと、父さんは面食らったような顔をする。
それが鏡越しに見えて、こらえきれず笑ってしまった。
ティッシュを渡すと、父さんは涙を流しながら嬉しそうに笑って鼻をかんだ。
その光景が何だかおかしくて、気が付けば俺も父さんも声をあげて笑った。
父さんと話せてよかった。
付喪神がいなければきっと、こうはならなかった。
鏡月にも、お礼を言ってやってもいいかな。
父さんとちゃんと話せたよって。
いつもは腹立つ奴だけど、今回ばかりはそれでもいいかもしれない。
だけどその日以降、俺があの店に辿りつくことはなかった。















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。