第24話

第二十四話
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2026/03/31 09:00 更新
ずっと返したいと思っていたんだ
父さんの手の中にある鏡のフレームは、記憶よりも少しだけ小さく見えた。
けれど、埃がついていたりすることも、よごれがついていることもなく、大切にされていたことが分かる。
もう鏡の破片は残ってないと思ってた。
だからこれを渡す機会も、もうないだろうって……
いつか向こうで母さんにあったら、
土下座をしないといけないと思っていた
唯
それ、……ずっと保管してくれてたの?
罪滅ぼしではないけど……
でも、これまで捨ててしまったらもう
取り返しのつかないことになりそうでな
そう言って、父さんはフレームを指先で優しくなぞると、こちらに差し出してくる。
すまなかった
そんな謝罪と共に。
唯
……父さんにとって、
俺はいらない子じゃない?
そんなことあるわけないだろ!
思わず聞いてしまった言葉は、すぐに強く否定された。
そして、ぎゅっと強く抱きしめられる。
唯をいらない子だなんて思ったことはない。
お前は、“唯一の存在”なんだ
唯は、父さんと母さんの、たった一人の大事な子なんだ。
……失いたくなかった。鏡を壊してでも、
お前を守りたかったんだよ
声が震えている。
抱きしめられた温もりが久しぶりで、気づけば父さんの腕にすがっていた。
本当はこうして泣きたかったのかもしれない。母さんがいなくなって、俺も父さんも縋る先が欲しかったのかもしれない。

寂しかった。悲しかった。苦しかった。
少し間違えてしまったけど。ちょっと遅くなってしまったけど。
これからはそれを共有して、少しずつ、分かり合えたらいいな。




唯
じゃあ、はめてみるよ
ひとしきり泣いた後、俺は目を真っ赤にしたまま父さんを見た。
頷いた父さんの目も、少し赤かった。

父さんから受け取ったフレームに、回収してきた鏡の破片をはめていく。そして、さいごの一つをはめたその時、鏡がふわりと光を放った。
その眩しさに一瞬目を閉じて──そして次に開くと。
唯
あ……
そこにあったのは、母さんからもらった手鏡そのものだった。
唯
(割れたヒビはそのまま残ってる……
でもくっついてるみたい)
そっと鏡のヒビをなぞる。
ただ置いただけで接着剤も使ってないのに、まるでぴたりとくっついているかのように動かない。
不思議だな……
横から覗き込んできた父さんが、つぶやく。
唯
付喪神が、いるんだよ
付喪神?
唯
そう。この鏡には、付喪神が宿ってるんだって。
だからきっと、その子のおかげ
鏡月が説明してくれたことを思い出す。
俺に、そしておばあさんに、お兄さんに話していた付喪神のこと。
水先が伝えてくれた言葉も。
唯
付喪神って、人が大切にしてたものに宿るんだって。
で、その物をなくしたり壊したりした時……
最後の力を使って、呼んでくれるらしい
じゃあ、この子も呼んでくれたのかい?
唯
うん。何回も、何回も呼んでくれてた。
それで、教えてくれてた
唯
『忘れないで』って
忘れないで……?
唯は何かを忘れてたのか?
唯
うん
鏡越しに、父さんが見える。
その父さんの目は、昔の様に優しかった。鬼みたいな顔じゃない。
鏡月
鏡月
『見えているものは案外、
感情に左右されるものなのかもな』
俺が、勝手にそう見ていたんだ。勝手に、父さんを鬼にしていたのは、俺の方だった。
唯
ありがとう、父さん
お礼を言うと、父さんは面食らったような顔をする。
それが鏡越しに見えて、こらえきれず笑ってしまった。
唯
ははっ、父さん、変な顔してる
だ……って……
唯
え、うわ! 泣いてる!?
だって……唯が……
唯と話せてるだけで嬉しいのに……
母さん、俺、また唯と話せたよ……
唯
鼻水! 鼻水スーツについたらまずいだろ!
ティッシュティッシュ……
あぁ……こんなに優しい子に育って……
唯
変なこと言ってないで鼻かんで! ほら!
ティッシュを渡すと、父さんは涙を流しながら嬉しそうに笑って鼻をかんだ。
その光景が何だかおかしくて、気が付けば俺も父さんも声をあげて笑った。

父さんと話せてよかった。
付喪神がいなければきっと、こうはならなかった。

鏡月にも、お礼を言ってやってもいいかな。
父さんとちゃんと話せたよって。
唯
(きっと、よかったなって言ってくれるんだろうな。むかつくけど)
いつもは腹立つ奴だけど、今回ばかりはそれでもいいかもしれない。




だけどその日以降、俺があの店に辿りつくことはなかった。

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