第4話

二部 返り咲け!!
41
2020/04/05 12:59
 ジリジリと暑い日差しが差し込んでくる夏の昼下がり。私は、今までの成果を出すためのコンクール会場の前にいた。
 今日、ここですべてが決まるんだ。今までの努力も何もかも全てが。
彩葉
彩葉
ねー、音葉あまり緊張しないの。まだコンクールの発表までは一時間くらいあるんだよ?
音葉
音葉
そ…そうだね…
 何回も出ているとはいえ、結構緊張するものだ。いつのまにかに手や声が震えてしまっている。
彩葉
彩葉
ほら、深呼吸しなよ
音葉
音葉
うん…
 すぅ…はぁ…と息を吐いて吸った。少しだけ、呼吸が落ち着いた気がした。
彩葉
彩葉
落ち着いた?
音葉
音葉
ちょっとはね…
すると、お姉ちゃんは私に笑顔を向けていった。
彩葉
彩葉
じゃ、行こっか!会場に。受付しないとだし。
音葉
音葉
そうだね
 そうして、私はお姉ちゃんと共に中の建物に入った。すると、小さな子がドレスを着てはしゃいでいたりしていた。
 昔の私も、初めて着たドレスに喜んでこんな感じではしゃいでいたな~なんて思いつつ、受付の方へ行った。
音葉
音葉
すみません、音霧 音葉です。受け付けお願いします。
受付の先生
音霧さんね…あ、18番です。はいこれ、他の人の演奏の順番とか色々載ってるから。
音葉
音葉
ありがとうございます
 パンフレットを渡され、ちらっと中身を見ると確かに32番のところに音霧 音葉という名前が載っていた。
 名前があることを確認したらすぐに閉じてお姉ちゃんのところへ向かった。
音葉
音葉
お姉ちゃん、今回は18番だったよ。
彩葉
彩葉
おー、結構後ろの方だね。やっぱりもう中学生だからかな?
音葉
音葉
そうだね
彩葉
彩葉
そっか。ま、とりあえず結構ギリギリに来ちゃったし中入ろっか
 そう話を切り上げて、私とお姉ちゃんはホールの中へと向かった。やっぱり中にはたくさん人がいて、込み合っている。
 そのなかから適当な席を選んで座った。近くには私と同じくらいの子がいる。
彩葉
彩葉
ねね、音葉。今回ってなんか人数少なくない?
音葉
音葉
そうかな?
彩葉
彩葉
そうだよ、だっていつもなら30人くらいいるのに、今回は20人でしょ?
 そういえば、そんな気がする。いつもだったら何時間も待たされる気がする。けど、今回は一時間くらいで終わりそうだ。
音葉
音葉
そうだね~。まあ、今回は六番前に待機場所にいけばいいらしいから私がちゃんと聞けるのは実質十二だけだけどね。
彩葉
彩葉
そっか。ちゃんと演奏聞いておくから楽しんでおいで。
音葉
音葉
うん!
 すると、開演五分前を告げるチャイムがなった。
彩葉
彩葉
そろそろ始まるわね。はい、楽譜。最後に確認しておきなさい。
 そういって、楽譜を手渡してくれた。私は軽くお礼をいいながら私は楽譜に視線をおとした。
 この後、先生たちの開会式があってうんぬんかんぬん色々な話を聞かされたのだが、それは特筆すべきこともないので省略させてもらおう。
 まあ色々あって、演奏が始まったのである。モーツァルトやらベートーベン、シューベルト等、色々な人の曲を皆弾いている。
 やっぱり、中学生の部ということでみんなレベルが高い。
 そんな事を考えながら聞いていると、時間がどんどんどんどん進んでいく。いつのまにか、自分の六番前になっている。
音葉
音葉
お姉ちゃん、私そろそろいくね。
彩葉
彩葉
いってらっしゃい、頑張ってね。
こそこそっと、お姉ちゃんと会話をして私はホールの後ろの方にいる先生に話しかけた。私の右手には、確認用の楽譜がぎゅっと握られている。
音葉
音葉
ごめんなさい、18番の音霧です。
先生
音霧さんね。それじゃあちょっと待ってて。
音葉
音葉
は、はい。
 演奏と演奏の間でなければ外に出られないというルールがある為、外の舞台裏に出るには、待っていなければいけないのだ。
 前の人の演奏が終わって、拍手がまばらに聞こえはじめた。すると、先生は扉を開けながら言った。
先生
じゃあいこうか。
音葉
音葉
はい
 ホールの外に出て右側の方へ歩き出す。すると、一番奥に小さな階段がある。その階段を降りて、控え室とかいてある部屋に入ると私より前に出番がある子が、五人いた。
先生
じゃあ、ここで座って待っていてね。
音葉
音葉
わかりました。
 指定された席に座り、私は楽譜をそっと開いた。もう確認するためというより、緊張をほぐすためにやっているためあまり頭に内容は入ってこない。
音葉
音葉
(やっぱり、緊張するな…)
 やっぱり、緊張していると時間が速く感じるもので一人、二人とどんどん人が舞台に上がっていく。納得したような表情で帰っていく人や、今にも泣き崩れそうな表情な子もいた。
 そして、ついに私の出番になってしまった。
音葉
音葉
(とうとう、本番のときだ。今までの物の全てがここで決まる。絶対に舞台上では後悔しないように今まで練習してきたんだ。その成果を発揮するだけだから…)
 先生に、舞台裏までつれていかれて観客席がちらっと見えた。すると司会の先生が話はじめる。
司会の先生
~~さん、素敵な演奏をありがとうございました。続いて18番、音霧 音葉さん、お願いします。
 覚悟を決め、舞台に一歩足を踏み出した。堂々と、弱気なところを見せずに歩いた。
 舞台上にある御辞儀をするところで一礼した。すると、大きな拍手が聞こえてくる。
 ピアノの方へ向かって座った。一回深呼吸して、私は指を手におく。そして、指を一気に滑り出し始めた。軽く、優しく弾く。
 滑り出しは好調である。音が綺麗に響いてくれた。最初の所は上手くいった。
 ここからは指を速く動かさなければならないため頭はなるべく動かさないで弾く。いや、正確にはまともに動かない頭に頼らずに感覚をフルに使う。
 中盤の速いところを越えて、最初と同じ旋律。ここがここを越えたところが、最後の見せ場だ。
 しっかりと間をとって、左手と右手の音を上手く噛みあわせて、右手の高い音を響かせる。
 そして最後の所、音を一回小さくして一気にデクレッシェンド(音を大きくする)をかけ華やかに終わらせた。
 ゆっくりと手を膝の上に一回おいた。そして、席を立ち先ほど御辞儀をしたまで歩いていき、御辞儀をした。
 先ほどよりも、大きな拍手が聞こえた。そのまま舞台裏へと戻っていった。
音葉
音葉
お…終わった…
舞台裏に戻ると、先生に話しかけた。
先生
音霧さん、お疲れさまでした。すぐに待機席に戻る?それとも外で待ってる?
 多分、お姉ちゃんはロビーで待っていてくれていると思う。だから、私は外で待ってると軽く伝えた。
先生
わかった、じゃあこの道をまっすぐ進むとロビーに出るから。
音葉
音葉
ありがとうございます
 先生にお礼をいって私は歩き始め、そのままロビーへと出た。
音葉
音葉
(えーっと…お姉ちゃんは何処にいるかな)
 適当にそこら辺を見回して見た。すると、後ろからドーンッと衝撃が走った。
彩葉
彩葉
お疲れ様~!
音葉
音葉
お姉ちゃん…
 どうやら、後ろから飛び付いてきたらしかった。正直、止めてほしい。ここは公共施設だし先生も居るかもしれないのだ。
彩葉
彩葉
すっごい演奏よかったよ!!流石私の妹だ。
音葉
音葉
ありがとう。けど、離れて…
 あ、ごめんといいお姉ちゃんは離れていった。それでも、嬉しそうな表情は崩れていない。
彩葉
彩葉
音葉の演奏、今まで聞いたなかで一番よかった。
音葉
音葉
はいはい…
 こうやって塩対応をしているが、実際顔が結構赤くなってしまった。やっぱりこうやって誉められると嬉しい。
彩葉
彩葉
さあ、後は結果発表だけよ。
音葉
音葉
そうだね。
 今回は、手応えは抜群だ。けど、入賞出来るかどうかわからない。ちょっとだけ不安が押し寄せてきた。
彩葉
彩葉
音葉そんな顔をしないで、大丈夫よ。
 不安を書き消したくて私はポツリと呟いた。
音葉
音葉
…大丈夫、だよね。だって私は頑張ったから。
彩葉
彩葉
えぇ、大丈夫よ。しかも、あなたは楽しめたのでしょう?もし賞がとれなくても、あなたが楽しめたのならそれでいいわ。
音葉
音葉
…そうだよね!!
 そうだよ。もしも、賞がとれなくっても私はいい。ピアノは、賞をとるためにやっているのではなく楽しむためにやっているのだから。
 少しだけ気持ちが軽くなった気がした。
彩葉
彩葉
ほら、それじゃあ結果発表まで時間もあるし今入ったところで他の人の演奏も聞けないし、カフェでも行く?
音葉
音葉
そうだね!!
 こうして、私達は一回会場を離れてカフェへと向かった。まあ、そんなに特筆すべき所はないのでこの辺りは省略させてもらおう。
 次に物語が進むのはもう一度会場の戻って、結果発表のためにホールにいるとこからだ。
音葉
音葉
お姉ちゃん、もうそろそろ…結果発表だね。
 さっき、賞なんか関係ないって思ったはずなのになぜか心臓はばくばくしていた。
彩葉
彩葉
そうね…。まあ、音葉。胸を張って壇上に登りなさい。もしも、銅賞でも私にとってあなたは一番だったわ。その事を忘れないでね。
音葉
音葉
お姉ちゃん、ありがとう。じゃあいってくるね。
 因みに、演奏者は指定席にいかなければならないのである。だからここで、お姉ちゃんとはお別れだ。
 私は覚悟を決めて、指定席の方へと行った。確か、中学生の部の18番だから後ろの方だ。
音葉
音葉
あ、あった!
 席の後ろに書いてある紙に中学生 18番というところを発見した。ここが、私の席だろう。
 席の方へいって、座った。周りには、結構人が集まりはじめている。小学生の部は結構埋まってるな。中学生の部はあと二人くらいだ。
 そして数分後、席の空きもなくなった。すると、ステージの方が暗くなった。すると、先生がステージに現れた。
 ながったらしいお話を適当に聞き流して、とうとう結果発表の時間になった。今までにないほど、私の心臓は高鳴っていく。
音葉
音葉
(小学生の部から中学生の部の順番だから後ろから三番目だね。)
 小学生がずらずらならび始めた。一番前の子からどんどん結果が言われていく。銅賞や銀賞であったり、金賞の子だっている。
 そして、小学生の部が終わりとうとう中学生の部に入った。
 今現在10番のところで、銀賞が3で金賞が1。あと金賞が2枠位だろうか?まだ希望はある。
 そんな事を考えていたら、私の順番が来てしまった。
音葉
音葉
(お願いします…お願いします…)
そして、舞台の上にたったときに先生はこう言った。
先生
音霧 音葉さん…
音葉
音葉
は、はい!
先生
金賞!!
え…金賞…?本当に!?やったぁ!!
 嬉しくて、少しだけ泣きそうになる。だが、いけないここは舞台上だ。先生の前に進み出て、私は賞状を受け取った。
 受け取り終わり、私は席に戻る。もう一度文字を見直しても金賞と書いてある。夢じゃないんだよね?
 夢じゃない、これはれっきとした現実だ。私が、今まで努力をしたその証。
 結果発表が終わり、私はすぐにお姉ちゃんのところへ向かった。すると、お姉ちゃんはもう一度抱きついてきた。
彩葉
彩葉
おめでとう!音葉。
音葉
音葉
うぅ…お姉ちゃん…ありがとう…
泣きそうな声で、私はそう言った。
彩葉
彩葉
ほら、嬉しいのはわかるけど泣かないの。これから写真を撮るんだから。飛びっきりの笑顔を作らないといけないわ。
音葉
音葉
そうだね…
彩葉
彩葉
改めて、金賞おめでとう!音葉
 大好きな姉につれていかれて、私は結果が書いてあるボードの前にたって写真を撮った。
 その時撮った写真は、私の一生の宝物になるだろう。
 こうして、私の中学二年生のコンクールは幕を閉じたのであった。

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