ジリジリと暑い日差しが差し込んでくる夏の昼下がり。私は、今までの成果を出すためのコンクール会場の前にいた。
今日、ここですべてが決まるんだ。今までの努力も何もかも全てが。
何回も出ているとはいえ、結構緊張するものだ。いつのまにかに手や声が震えてしまっている。
すぅ…はぁ…と息を吐いて吸った。少しだけ、呼吸が落ち着いた気がした。
すると、お姉ちゃんは私に笑顔を向けていった。
そうして、私はお姉ちゃんと共に中の建物に入った。すると、小さな子がドレスを着てはしゃいでいたりしていた。
昔の私も、初めて着たドレスに喜んでこんな感じではしゃいでいたな~なんて思いつつ、受付の方へ行った。
パンフレットを渡され、ちらっと中身を見ると確かに32番のところに音霧 音葉という名前が載っていた。
名前があることを確認したらすぐに閉じてお姉ちゃんのところへ向かった。
そう話を切り上げて、私とお姉ちゃんはホールの中へと向かった。やっぱり中にはたくさん人がいて、込み合っている。
そのなかから適当な席を選んで座った。近くには私と同じくらいの子がいる。
そういえば、そんな気がする。いつもだったら何時間も待たされる気がする。けど、今回は一時間くらいで終わりそうだ。
すると、開演五分前を告げるチャイムがなった。
そういって、楽譜を手渡してくれた。私は軽くお礼をいいながら私は楽譜に視線をおとした。
この後、先生たちの開会式があってうんぬんかんぬん色々な話を聞かされたのだが、それは特筆すべきこともないので省略させてもらおう。
まあ色々あって、演奏が始まったのである。モーツァルトやらベートーベン、シューベルト等、色々な人の曲を皆弾いている。
やっぱり、中学生の部ということでみんなレベルが高い。
そんな事を考えながら聞いていると、時間がどんどんどんどん進んでいく。いつのまにか、自分の六番前になっている。
こそこそっと、お姉ちゃんと会話をして私はホールの後ろの方にいる先生に話しかけた。私の右手には、確認用の楽譜がぎゅっと握られている。
演奏と演奏の間でなければ外に出られないというルールがある為、外の舞台裏に出るには、待っていなければいけないのだ。
前の人の演奏が終わって、拍手がまばらに聞こえはじめた。すると、先生は扉を開けながら言った。
ホールの外に出て右側の方へ歩き出す。すると、一番奥に小さな階段がある。その階段を降りて、控え室とかいてある部屋に入ると私より前に出番がある子が、五人いた。
指定された席に座り、私は楽譜をそっと開いた。もう確認するためというより、緊張をほぐすためにやっているためあまり頭に内容は入ってこない。
やっぱり、緊張していると時間が速く感じるもので一人、二人とどんどん人が舞台に上がっていく。納得したような表情で帰っていく人や、今にも泣き崩れそうな表情な子もいた。
そして、ついに私の出番になってしまった。
先生に、舞台裏までつれていかれて観客席がちらっと見えた。すると司会の先生が話はじめる。
覚悟を決め、舞台に一歩足を踏み出した。堂々と、弱気なところを見せずに歩いた。
舞台上にある御辞儀をするところで一礼した。すると、大きな拍手が聞こえてくる。
ピアノの方へ向かって座った。一回深呼吸して、私は指を手におく。そして、指を一気に滑り出し始めた。軽く、優しく弾く。
滑り出しは好調である。音が綺麗に響いてくれた。最初の所は上手くいった。
ここからは指を速く動かさなければならないため頭はなるべく動かさないで弾く。いや、正確にはまともに動かない頭に頼らずに感覚をフルに使う。
中盤の速いところを越えて、最初と同じ旋律。ここがここを越えたところが、最後の見せ場だ。
しっかりと間をとって、左手と右手の音を上手く噛みあわせて、右手の高い音を響かせる。
そして最後の所、音を一回小さくして一気にデクレッシェンド(音を大きくする)をかけ華やかに終わらせた。
ゆっくりと手を膝の上に一回おいた。そして、席を立ち先ほど御辞儀をしたまで歩いていき、御辞儀をした。
先ほどよりも、大きな拍手が聞こえた。そのまま舞台裏へと戻っていった。
舞台裏に戻ると、先生に話しかけた。
多分、お姉ちゃんはロビーで待っていてくれていると思う。だから、私は外で待ってると軽く伝えた。
先生にお礼をいって私は歩き始め、そのままロビーへと出た。
適当にそこら辺を見回して見た。すると、後ろからドーンッと衝撃が走った。
どうやら、後ろから飛び付いてきたらしかった。正直、止めてほしい。ここは公共施設だし先生も居るかもしれないのだ。
あ、ごめんといいお姉ちゃんは離れていった。それでも、嬉しそうな表情は崩れていない。
こうやって塩対応をしているが、実際顔が結構赤くなってしまった。やっぱりこうやって誉められると嬉しい。
今回は、手応えは抜群だ。けど、入賞出来るかどうかわからない。ちょっとだけ不安が押し寄せてきた。
不安を書き消したくて私はポツリと呟いた。
そうだよ。もしも、賞がとれなくっても私はいい。ピアノは、賞をとるためにやっているのではなく楽しむためにやっているのだから。
少しだけ気持ちが軽くなった気がした。
こうして、私達は一回会場を離れてカフェへと向かった。まあ、そんなに特筆すべき所はないのでこの辺りは省略させてもらおう。
次に物語が進むのはもう一度会場の戻って、結果発表のためにホールにいるとこからだ。
さっき、賞なんか関係ないって思ったはずなのになぜか心臓はばくばくしていた。
因みに、演奏者は指定席にいかなければならないのである。だからここで、お姉ちゃんとはお別れだ。
私は覚悟を決めて、指定席の方へと行った。確か、中学生の部の18番だから後ろの方だ。
席の後ろに書いてある紙に中学生 18番というところを発見した。ここが、私の席だろう。
席の方へいって、座った。周りには、結構人が集まりはじめている。小学生の部は結構埋まってるな。中学生の部はあと二人くらいだ。
そして数分後、席の空きもなくなった。すると、ステージの方が暗くなった。すると、先生がステージに現れた。
ながったらしいお話を適当に聞き流して、とうとう結果発表の時間になった。今までにないほど、私の心臓は高鳴っていく。
小学生がずらずらならび始めた。一番前の子からどんどん結果が言われていく。銅賞や銀賞であったり、金賞の子だっている。
そして、小学生の部が終わりとうとう中学生の部に入った。
今現在10番のところで、銀賞が3で金賞が1。あと金賞が2枠位だろうか?まだ希望はある。
そんな事を考えていたら、私の順番が来てしまった。
そして、舞台の上にたったときに先生はこう言った。
え…金賞…?本当に!?やったぁ!!
嬉しくて、少しだけ泣きそうになる。だが、いけないここは舞台上だ。先生の前に進み出て、私は賞状を受け取った。
受け取り終わり、私は席に戻る。もう一度文字を見直しても金賞と書いてある。夢じゃないんだよね?
夢じゃない、これはれっきとした現実だ。私が、今まで努力をしたその証。
結果発表が終わり、私はすぐにお姉ちゃんのところへ向かった。すると、お姉ちゃんはもう一度抱きついてきた。
泣きそうな声で、私はそう言った。
大好きな姉につれていかれて、私は結果が書いてあるボードの前にたって写真を撮った。
その時撮った写真は、私の一生の宝物になるだろう。
こうして、私の中学二年生のコンクールは幕を閉じたのであった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!