あなた『…ごめんなさい』
丈一郎『謝るな』
私は藤原さんの車に乗ってから謝る。
藤原さんは私の方を見ずに運転を続ける。
あなた『…そういえば…道枝くんは…?』
丈一郎『…あぁ、あいつなら課題に追われとる』
あなた『…そんな多かったっけ…』
丈一郎『お前の学校、偏差値高いんやな』
あなた『…そうですか?』
丈一郎『…1日であの課題の量は多いわ…授業も難しいらしくて道枝半泣きやったで』
道枝くん、確かに授業中いつも顔をしかめてた気がする。
皆がスラスラ問題解く時も1人だけ窓の外見てたし。
丈一郎『…俺が金で入れてやったけど、それがあいつにとって苦労になるならまだ低い学校に転校させようか迷ってんねん』
あなた『…でも、お友達も出来て楽しそうでしたよ』
丈一郎『…ならええんやけど』
あなた『藤原さんって、意外と道枝くんのこと考えてるんですね』
丈一郎『…別に』
そう言った藤原さんの耳は赤かった。
きっと、藤原さんにとって道枝くんは大切なんだ。
たとえ恋のライバルだとしても。
丈一郎『家か俺のとこ、どっち』
あなた『…道枝くんに勉強教えてあげたいです』
丈一郎『…俺じゃなくて道枝に会いたいん?』
そう言って拗ねたような顔をする。
随分と年上なのに可愛く見える。
あなた『藤原さんと会えて嬉しいですよ』
丈一郎『…まぁええわ、じゃあ俺のとこな』
そう言って藤原さんの事務所へ車を走らせた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!