第14話

さようなら、また会いましょう
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2021/06/25 06:00

ガラガラ……と重い扉を開く。


私が目の前にした光景は、相変わらずだった。

もしかしたら結弦くんが起きているかもしれない……なんて考えてしまっていた分、落胆してしまう。

今日はそんな時じゃないのにな。

峰川 佐知子
出発は13時なの。それまで……まだ時間はあるから。二人を引き裂くようなことをしてごめんね
斎藤 雪穂
斎藤 雪穂
元はと言えば、私の不注意ですから……こうして最後に結弦くんと話せるだけで十分幸せです



結弦くんのお母さんはにっこりと微笑んで病室を出た。

私はゆっくりと結弦くんのベッドの傍らに歩み寄る。

彼の寝顔は、今回の事故まで見たことがなかった。けれど、予想通り美しい。

斎藤 雪穂
斎藤 雪穂
結弦くん……本当にごめん

私は彼の手を取って握った。

頬を伝う涙を隠して。


斎藤 雪穂
斎藤 雪穂
私のせい……だよ。本当にごめん
 
きっと、結弦くんにも、彼のご両親にも謝っても謝りきれない。

もっと早くメガネを返していてもらっていたら?
あの時、本気でメガネを返してと言っていたら……


もうどうしようも無い後悔と、どこにもぶつけようのない怒りが込み上げる。



彼の顔が見たい。もっとずっと。


でも、最後だから。


私はメガネを外して隣のテーブルに置いた。

斎藤 雪穂
斎藤 雪穂
結弦くん、こっちの方が好きなんでしょ?

最後は結弦くんの好きな私でいたいから。


斎藤 雪穂
斎藤 雪穂
どう?可愛い?

冗談まじりにそう言うけれど、彼は動かない。

分かってはいるけど、まだ心のどこかで期待してしまっている。

斎藤 雪穂
斎藤 雪穂
私は……ずっとずっと、結弦くんのこと忘れない。ずっと大好きだよ

そうして私は自分の唇を彼の頬にあてた。




もしあなたが私のことを嫌いになったとしても、私はあなたのことがずっと大好き。

何があってもこの気持ちは忘れないし、薄れることもない。


永遠に。

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