空の青さが眩しく、目を瞑るほどの晴天に、程よく涼しい風。外に出るにはいい天気すぎる。
太陽から隠れる様に木に登り、一休みしながら真下を見ると、赤い屋根が特徴的な白い西洋屋敷の一室が丁度視界に入る。
中から西洋人の様な風貌をした、金髪の幼い少年が三連窓を左手で開け、目が合う。
西洋屋敷に住む金髪碧眼の少年……傍から見れば絵になりそうな程似合いだが、俺は似合わないなぁと呟き、軽く笑った。
「貴方は誰ですか」
少年が声を掛けた先に居たのは、俺だった。
木の上で一休みするつもりが見つかってしまい「おっと、失礼。休むのに良さげな木があったから休憩していたんだ」と、少年の問いを無視して的外れな答えを返す。
「部屋のドアの鍵が開いているんだね」
唐突とも言える俺の言葉に、少年は静かに首を傾げる。
「どうして分かるの?ドア自体は開いてないし、奥にあるからそこからじゃ見えないよ」
「おや?幼い割に賢いね。木に登る前に偶然君が部屋に入るのを見た。少年、君は自由なんだね」
俺の言葉に少年はもう一度首を傾げ、片眉を上げて不思議そうな表情を浮かべた。
「鍵が閉まっていたら部屋からでられないよ?」
一見、噛み合ってなさそうな会話だが、俺と少年の中で会話は繋がっているし、互いに何を言いたいのか意味も通じている。
「ふっ。確かに出入口をドア限定にしたとして、ドアの鍵が閉まっていたら部屋からはでられないねぇ。至極当然。君にとってはドアの鍵が開いているのが当たり前。でも、“当たり前”と言うのは環境内で生み出された一種の固定概念であり、先入観だ。共通認識による刷り込み。だからこそ、“非道徳的で間違った当たり前”が存在していても、人は理不尽だと思いながらもそれを受け入れてしまう。それが当たり前で、それが現実社会だ……何て月並みの言葉で終わらせて、ね」
「僕のお父さんもたまに言ってるよ。“社会はそんなもんだ”って」
「ははっ。その理不尽な当たり前と現実社会を作ってるのは無意識に思考放棄した自分達だというのにね。“当たり前だから仕方ない”何て悲観する人が増えたら、そりゃあ社会だってそうなるよ。“自分の考えは違ったけど、社会や周りが自分をこうさせた”。なら、今度は自分も自分をそうさせた連中の一員になるの?そうなったら、自分は変わっても、周りは何も変わらないよねぇ。自分を悪い方向へ変えさせた社会がいつまでも続くだけ。それで現実が、社会が、周りが……等の文句をずっと繰り返すだけ」
少年は思い当たる縁があるのか、目を見開いたまま黙り込んでしまう。
俺が初対面の子供にこんな話をしているのはちゃんと理由がある。
対面するのは初めてでも、俺は君を知っているから。
「分かったつもりになっていても、“僕達”は何も分かってないんだ。“現実”や“社会”ってのはあくまで“概念”。自分達の生きる社会をどう作り、自分の生きる自分の現実をどう捉えるか……。同じ現実社会にいても、自分に見える現実社会は周りと違ってたりする。それを、あたかも当たり前のように、全員の見えてる現実であるかのように話して否定するのは少し違うと思わないかい?ここで勘違いしていけないのは、極端な見方をしない事さ」
「分かったつもりになっている、か。なら、貴方のその発言も分かったつもりになっている、に入るのかな?」
「鋭い指摘をどうも。否定出来ないけど、それが僕が生き、見てる現実。同じ現実でも、皆違う世界に住んでる。僕の世界は……数ある答えが存在する、答えのない世界。限りなく自由で不自由な世界。幾ら考えても、虚しいだけさ。僕は哲学や心理学が好きなのだけど……あれらの学問は信憑性云々はともかく、当たり前を当たり前ではないと疑う時に役立つと考えているよ。考えてもキリのない、答えのない世界は虚しいかもしれない。でもね、思考を続ける自分はまだ価値があるとすら思える」
「どうして、僕にそんな話を?」
「……君はその内、自由を手に入れて不自由になるだろう。僕と真逆だ。今もそう。それが僕の生きる世界。けれど、君には考え続けて欲しい。その時の状況に流され、思考放棄せず、裏に隠された意図を」
「?でも、貴方の見てる世界も“自由で不自由だ”って今……」
「ふふ。後から分かるよ」
もし自分が少年なら、例え鍵が開いていようとも外には出ないだろう。むしろ自分から閉める。その部屋の中だけが静かで
────────“自由”だから
※次からチャット式になります。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。