僕がそう話すと、二人は「え……」と目を見開き、互いの顔を見てから再び僕の方を向いた。
すると、猫が「お、オマエもなのか!?」と前のめりになって言うので、僕以外にも似た状況の人が居るのだと察する。多分、様子からして隣にいる少年だろう。
鏡の中の男が何の為にわざわざこの世界へ僕を連れて来たのか。何故魔法の存在する世界か。
否、これは本当に男の異能か?
幻を見せたり、空間を作るならまだしも、異世界へ飛ばすとは……。
細かい疑問は幾らか出てくるが、それはおいおい解決させよう。
自分と同じで、他の世界から魔力を持たない仲間が来たのが嬉しかったのか、少年は随分と生き生きしている。しかし、こんなあっさり受け入れられて良いのだろうか。逆に不安。
全く警戒していない訳では無いが、彼等は突然現れた僕を快くもてなしてくれた。猫に関しては仕方ないな……といった流れでの了承だったが。
初対面とは思えない傍若無人ぶりに、向いてるベクトルは違うものの武装探偵社の江戸川乱歩さんが頭を過ぎった。
小声で少年に尋ねると、少年は「んー。そういう訳ではありませんが、ナイトレイブンカレッジだと魔力を持たないのを理由に何か言われる可能性はありますかね」と苦笑いする。
少年……ユウ君は早速台所に向かい、僕は椅子に座って部屋を静かに見回す。
今の所、僕達以外の気配はない。
鏡も、先程と変わらず部屋の中を映すだけ。
暫くするとユウ君が咖喱を二人分運んで来る。
グリムはカレーをガツガツと口の中に頬張り、ユウ君が「ゆっくり食べなよ……。お行儀悪い」と呆れながら注意する。
スプーンでルーとご飯をすくい、ゆっくりと口に運ぶ。不安気にユウ君が僕に視線を向けているのに気付き、「うん。美味しいです」と感想を述べた。
カレーを見て思い出すのは嘗ての友人。
何処かほっこりとした気持ちになり、ついさっきまで人を殺めていたのが嘘のようだ。
カレーを食べ終わったあとは就寝する為にやるべき事を済ませ、別の部屋へと案内される。
明日は学園長に説明も兼ねて僕を紹介したいということなので、朝早く起きて彼等と学校に行かねばならない。
何処か隠せそうな場所はないかと思い、部屋のクローゼットの天井裏を異能で少し剥がして武器を隠した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。