第8話

vol.5 寮
4,530
2022/02/24 22:00
寺戯 長詠
寺戯 長詠
(あの男子生徒、やんちゃそうだな。俺の事絶対“地味”とか思ってるな。エースって呼ばれてたけど……うちの幹部にも居たなぁ。エースさん。ドストエフスキーとの一件でもう居ないけど)
グリム
グリム
寺戯ー、ぼーっとしてるけど大丈夫か?
グリムに声を掛けられて「何でもありませんよ」と軽く笑っておく。
そして話をすり替える様に「にしても、本当広いですね。この学校。散歩のしがいがありそうです」と言ってみたりする。
グリム
グリム
学校内を散歩して面白いのか?
寺戯 長詠
寺戯 長詠
面白いと言うより、単に散歩が趣味でして。特に人気の無い、静かな夜の散歩は好きですよ
ユウ 監督生(仮姿)
ユウ 監督生(仮姿)
夜の散歩……。それなら、たまにオンボロ寮に男子生徒が一人来るよ。僕達は“ツノ太郎”って呼んでるけど
寺戯 長詠
寺戯 長詠
ツノ……?
ユウ 監督生(仮姿)
ユウ 監督生(仮姿)
うん。ツノが生えてて……名前は……
彼が僕の方を振り返った瞬間、曲がり角から出てきた誰かとぶつかる。
ユウ 監督生(仮姿)
ユウ 監督生(仮姿)
す、すみません
レオナ・キングスカラー
レオナ・キングスカラー
あ?誰かと思ったら……
ラギー・ブッチ
ラギー・ブッチ
オンボロ寮の二人と……誰ッスか?
寺戯 長詠
寺戯 長詠
(お、獣耳男子生徒)
少年が俺についての事情を説明し、小柄な方の青年が「またッスか!?」と驚いた顔をする。
“また”とは、“また異世界から人が来た”と言う意味だろう。一方で、ガタイの良さそうな男性はこちらをまじまじと見ている。
レオナ・キングスカラー
レオナ・キングスカラー
……異世界には草食動物しかいねぇのか?
“草食動物”という言葉に対して一瞬頭にハテナが浮かんだが、俺達のことを言っているのか。
僕達が“草食動物”なのは、ガタイ良さげな彼に比べたら僕も少年も小さいし、筋肉もあまりないので弱そうって意味が含まれているのだろう。
寺戯 長詠
寺戯 長詠
(彼みたいな厳つい人に耳や尻尾があるってのは、ギャップを感じるけど)
ユウ 監督生(仮姿)
ユウ 監督生(仮姿)
あ、紹介しますね。右にいる方がラギー先輩で、隣にいる方がレオナ先輩です。お二人はサバナクローの寮生で、レオナ先輩は寮長です
レオナ・キングスカラー
レオナ・キングスカラー
ふん
ラギー・ブッチ
ラギー・ブッチ
どーも。寺戯くんも魔力無しって……大変かもしんねーけど、ま、帰る方法見つかると良いッスね。そんじゃあ、俺達もう行くんで
特に何事もなく獣耳のお二人ともお別れし、少しすると学園長室へとたどり着き、ノックをして「どうぞ」と言う声と共に中へと入った。
学園長室に入ると、早速少年達が学園長に僕の事を話す。それよりも、学園長の声が首領と似ている事に驚き、一瞬ビビった。
森さんも性格的に愉快な部分はあるが、この学園長の方が愉快そうだ。でも胡散臭いのはどちらも一緒だろう。
寺戯 長詠
寺戯 長詠
(学園長の姿、派手でファンタジーだな……)
ディア・クロウリー
ディア・クロウリー
まさか、また異世界から人が現れるとは……。失礼ですが、貴方はお幾つでしょうか?
寺戯 長詠
寺戯 長詠
十八です
グリム
グリム
ラギー達より年上だったのかオマエ
学園長は「ふむ……」と考え始め、僕はその様子を黙って見つめていたが、この後の展開は嫌でも想像出来る。
ディア・クロウリー
ディア・クロウリー
魔法が使えない貴方を三年生の教室に入れてもね……。座学中心の一年のクラスで貴方達三人一緒に居させるのが無難でしょう
寺戯 長詠
寺戯 長詠
(少年の事もあって薄々察してはいたが、学校に通う流れになるんだなあ。
魔力を持たない二人で一緒に支え合い、帰る方法を探って欲しいってとこかな)
ディア・クロウリー
ディア・クロウリー
こちらで丁度余っていた制服もお渡ししますので、一日の流れは彼等と一緒にいれば分かるでしょう。
くれぐれも、問題は起こさないように
寺戯 長詠
寺戯 長詠
(森さんに言われてる気分だ)
普通の高校すら通った事ない自分が、突然魔法学校で生徒として行かねばならなくなる。
面白そうだが、同時にやっぱり面倒くさい。
特に朝早く起きる行為が。
魔法は確かに使えない。でも……異能は使える。
ある意味、それが救いでもあった。
そういう点では、魔法も異能も無いのに過ごせている“ユウ君”には感心する。
ユウ 監督生(仮姿)
ユウ 監督生(仮姿)
更衣室には僕が案内します
「失礼しました」と一言言って学園長室から出て行き、更衣室に向かう。グリム達は自分が着替えている間にお手洗いを済ませる為、僕は誰も居ない更衣室の中で手早く着替えを済ませた。
自分の着ていた洋服は、制服と一緒に渡された袋に入れて持って行く。しかし、手続きなしでこんなにもすんなり許してくれるとは……。
この学校の規則……と言うより、学園長は大丈夫なのか。更衣室から出ると、戻って来る最中の少年とグリムが廊下で誰かと話をしていた。
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
ユウさん、もしよろしければ放課後モストロ・ラウンジにいらっしゃいませんか?お話したいことがありまして。
今回は特別に割引致しますので
少年達の前に立っていたのは眼鏡を掛けた銀髪の青年。見た目で判断するのは良くないが、如何にもプライドが高く、計算高そうな青年だ。
寺戯 長詠
寺戯 長詠
(“ラウンジ”って……さっき少年が教えてくれた寮の説明にあったような……。どっかの寮生が学校内に店を経営してるんだっけ?彼かな。随分と口達者な商売人だねぇ。損得勘定で動くタイプと見た)
僕が三人に近付くと、眼鏡の青年はこちらに気付いて話しを止めた。
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
おや?見かけない顔ですね。その方は?
ユウ 監督生(仮姿)
ユウ 監督生(仮姿)
この方は……
少年が青年に事情を話し、青年は「なるほど」と営業スマイルを浮かべた。毎度説明してくれる少年、優しい。僕はもう聞き飽きてしまったが。
本来ならば自分で説明するべきだろうけれど、代わりに説明してくれる人がいるならば自分は何もしない。
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
どうも初めまして。僕はオクタヴィネル寮長のアズール・アーシェングロットと申します
寺戯 長詠
寺戯 長詠
寺戯長詠です
寺戯 長詠
寺戯 長詠
(オクタ何とかって……何の寮だっけ。店経営してるのは合ってるんだろうけど)
名前と寮が一致しないので念の為どんな寮か確認で彼に尋ねてみることにした。
寺戯 長詠
寺戯 長詠
貴方の属している寮はどんな寮何ですか?先程彼から寮の説明は受けたんですけど忘れてしまって……
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
オクタヴィネルは海の魔女の慈悲の精神に基づく寮で、学園内ではモストロ・ラウンジというカフェを運営しています。興味があれば、何時でもいらして下さい。悩み相談も受け付けていますので
寺戯 長詠
寺戯 長詠
(悩み相談、ね。タダでとは行かないんだろうな)
眼鏡君の簡単な説明を聞き、“海”と言う単語から組合のラヴクラフトを思い出したので、無意識で「タコ……」と呟くと、眼鏡君は笑顔のままピクッと微妙に顔を引き攣らせる。
彼の反応でもう一つ思い出した。
その、オクタコ……じゃない。オクタ何とか寮にいる生徒は普段人魚だが、薬で人の姿になっている生徒が多いと少年が言っていた。
それも、人魚は人魚でもセイレーンみたいな見た目だけでなく、色んな姿をした人がいるのだとか。
寺戯 長詠
寺戯 長詠
(眼鏡君のあの反応……。まさか……)
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
僕が“タコの人魚”だというのはユウさんから聞いたのですか?まぁ、それはともかく、もうそろそろ授業が始まりますので僕は失礼します。では、ユウさん、寺戯さん、御来店お待ちしておりますよ
眼鏡君は営業スマイルのままスタスタと去って行く。彼はやはり、“タコの人魚”らしい。
グリム
グリム
お前すげーんだゾ!何でアイツがタコだって分かったんだ?
ユウ 監督生(仮姿)
ユウ 監督生(仮姿)
アズール先輩は僕が教えたって勘違いしてましたけど、僕アズール先輩に関しては寺戯さんには話してませんでしたよね?
寺戯 長詠
寺戯 長詠
まぁ分かったと言うか、顔見知りにタコ野ろ……んん。タコの様な男性が居まして。海と聞いてその男性を思い出し、無意識に呟いただけですよ。深い意味は無かったのですが、偶然とは言え合っていたのは驚きですね
ユウ 監督生(仮姿)
ユウ 監督生(仮姿)
タコの様な……?よく分からないけど、僕達も早く教室に行った方が良さそうだね
寺戯 長詠
寺戯 長詠
ですね
僕は少年の後に着いていき、教室へと向かった。

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