少年の後に続き、教室に来たが……中は随分と賑わっており「よー。先程ぶりー」と、エース君が声を掛けてくる。彼は、元同僚と同じ名前だから覚えやすい。
青髪の男子生徒が俺に視線を移すと、エース君が「ユウと同じ様に異世界から来たんだと」と、ざっくり説明する。
この世界の住人は魔法が使えて当たり前なのだろうか。魔法が使えない普通の人間は居ないのだろうか。居るにはいるだろうが、魔法士育成の為の学校で魔法が使えないのは論外ってことだろうか。
そんな事を考えているとチャイムが鳴り、全員が席に座る。担任の先生のホームルームが終わった後は普通に授業が始まるのだが、教室に入って来たのは髪をオールバックにした叔父様の様な男性。
最初の授業の担当教師だろう。腕には猫を抱えている。猫を抱えて授業は……アリなのか?
先生が「では、授業を始める」と声を出した瞬間、僕は目を見開いた。
先生の声は、武装探偵社の社長さんの声に似ていた。エース君に先生について聞くと、この先生……トレイン先生は文系科目を担当しているらしく、主に魔法史について教えているようだ。
魔法も使わなければこの世界に住む訳でもないのでやる気は無い。でも、とりあえず流れとして見ておく。
僕の隣では少年が静かに授業を受けていたが、グリムは「ん〜。テストまでに覚えること多すぎるんだゾ〜」と頭を抱えている。
今は手元に教材がないので、少年と一緒の教科書を見ている。それに対して先生が何も言わないのは、学園長から僕のことを聞いているからだろう。
しかし、次第に眠たくなり後半は半分ぐらい話を聞かずに授業が終わった。世の中の学生も大変だ。
退屈しながらも何とか午前中の授業は終わり、大食堂に行く。午後の授業は俗に言う体育の様な授業らしいが、箒を使って空を飛ぶと言う。
でも、自分は運動着なども無い上に、魔法も使えないので今日は見学になるだろう。
大食堂に着いてから小声で呟くと、後ろから「あれあれ?ユウちゃん達じゃーん」と明るい声が聞こえた。声を掛けてきたのはチャラそうな青年。その隣には、白い帽子を被った眼鏡の青年が居た。
エース君が元気よく挨拶すると、続けてスペード君も「お疲れ様です」と丁寧に挨拶する。
エース君が付け加えるように話し、先輩二人は「そうなの/か!」と目を見開いた。
一緒に食事する流れになり、僕はみんなの話に相槌をうちながら耳を傾けた。
スペード君やエース君は不良感あって負けず嫌いの様だが、ここに居るメンバーは特別プライド高すぎて嫌味を言う雰囲気は無かった。主に先輩二人の方は。少なくとも、“今だから”そうなのだろう。
と言うのも“例外”とも呼べる魔法を使えない“ユウ君”が一番最初にこの学校に現れたからこそ、後から現れた僕は何も言われないだけだ。
そう考えると、“ユウ君”の存在は僕からしても有難いが、同時に傲慢になりつつある彼等を変えていく“きっかけ”であり“鍵”でもあるのだろう。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。