人通りの少なくなった廊下を歩いていると、「やっと見つけたぞ!」と言いながら中也に胸倉を掴まれるが、慣れているので特に抵抗はしない。
けれど、少年達は驚いている。
実を言うと、昼間に“ハント先輩”と言う生徒に連れられ、オレンジ髪の知らない生徒が教室に来て僕を探していたとデュース君から伝えられたのだが、残念ながら僕は少年達と学校内をブラついて教室にはいなかった。
中也からすれば、主に教師陣に部外者が学校内に入り込んでいると知られる訳にも行かないだろうし、授業中に乱入などしてこないだろう。
なので、今に至るまでなるべく人前で会わないようにし、撒いていたのだ。
隣で顔を引き攣らせる少年とグリムをスルーし、僕は呆れたように小さく溜息をつく。
僕が聞くと、中也はハッとして「そういえば!クソッ。魔法で制服着せられたからな」と独り言を呟く。よく制服を貸して貰えたものだ。
中也の横を通り過ぎ、背中を向けたまま右手をヒラヒラと振る。そんな僕の後を少年達が追いかけ、中也は一人廊下に取り残される。
中也と別れた後、学校から出ようと廊下を歩いていると、一人の生徒とすれ違う。
その瞬間、一瞬だけ“異空間”に足を踏み入れた感覚に陥り、その僅かな間に耳元で誰かが囁いた。
勢いよく後ろを振り返るが、背後には少年とグリムが居るだけで他には誰も居ない。
この世界に留まっていれば、何か面白い事が起こる予感はしていたが……こういう厄介な面白さは別に求めてはいない。
再び歩き出し、僕は男の言葉について思考を巡らせる。男は“四組織で学校の生徒を守れ”と言った。
敵は異能者。そして、異能者から生徒を守るなら異能組織に属す人物が中也の様にこの世界に飛ばされるだろう。流れで行けば、恐らく探偵社の連中も来るかもしれない。
だとすれば、他の二組織は何処の組織なのか……。
……組合と異能特務課だろうか。
もしくは、政府の猟犬部隊だろうか。
だが、どの組織にせよ強力且つ影響力のある組織に変わりない。その組織を四組織丸ごと敵に回すとは中々度胸があるのか、己の力を過信する無謀な愚か者なのか……。
恐らく敵は一人ではなく集団だろう。
他に仲間がいる筈だ。
男の言葉からして潰す必要はなく、此方の世界に僕達を閉じ込めるだけで良いのかもしれない。
こうして実行に移していると言う事は、四組織に勝てる見越しがあるからだろうか。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!