第2話

『優しい』とは何か
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2021/08/13 01:19
奏汰side


僕は、小さい頃から他人に対して気を遣うことができた。
空気を読むことができた。


そうやって、自分を押し殺して生きていたら、いつしか僕は「優しい」と言われるようになった。
無理をしている僕にとっては、その言葉は苦痛でしかなかったけれど。





皆、『優しい』を『空気が読める』、『気が使える』だと勘違いしているのだ。
幼い僕の周りには、その認識の間違いを正してくれる大人はいなかった。




僕の母も、『優しい』を勘違いしている中のひとりだ。

あの人がおかしくなった原因は、十中八九親父にあったと思う。



親父は僕が六歳の頃、愛人を作って出ていった。
いわゆる不倫ってやつだ。
幼い僕には、何が起きたのかも理解できなかったが。


それからというもの、母は何かにつけて世間体を気にするようになった。
そして、もともと器量よしだった母は、新しい男を見つけて貢がせた。

僕は、その男の金で生きているのかと考えると吐き気がする。



母の言う『世間体』には、成績も含まれていた。
僕は、母に見捨てられないように一生懸命勉強に食らいついた。
僕の成績が悪かった日には、ヒステリーを起こすから手に負えない。




僕の心は日に日に削られていたに違いない。








そんな僕にさらなる追い打ちをかけたのは、学校生活だった。


中学三年生の時、僕は『幽霊君』と呼ばれ始める。
理由は簡単。
存在感が薄いからだ。


元から親しい友達なんていなかった僕には、さして悲しい出来事というわけでもなかった。


ただ、、、
クラスメイト1
幽霊君、幽霊君www
クラスメイト2
ちょっと~、やめてあげなよ~
幽霊君が可哀想じゃんwww
はっきりとした棘とあざけりを含む言葉が、僕に少しずつストレスを与えていたのは間違いない。


塵も積もれば山となる。
何か月間にもわたって続けられたいじめまがいな行為は、僕の中に深い傷跡を残した。




そんな僕は高校生になったわけだが、、、『幽霊君』と呼ばれることは変わらなかった。

なにせ、ここら辺には高校といえばこの水谷高等学校みずたにこうとうがっこうしかないのだ。
そして、この高校はそこまで偏差値が高いというわけでもない。
むしろ、受験者はほとんど受かることで有名な高校なのだ。

だから、中学と高校ではほとんど顔ぶれが変わらない。


僕の地獄はまだ続く。

そう分かった瞬間だった。


家では母に、学校ではクラスメイトに敵意を向けられ、僕が息をつける場所なんてなかった。
心を許せる人なんていなかった。








そんな時に出会ったのが茜さんだったんだ。

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