奏汰side
僕の知る茜さんは、華があって綺麗な人だったけれど、その分なんだか陰があって、、、その陰に飲み込まれてしまいそうで怖かった。
一見すると無邪気で能天気、感情の分かりやすい人に見えるが、一緒に居れば分かる、、、本当に本心が読めない時があるということが。
思い返してみれば屋上にいるときも、どこか上の空だった時が結構あった、、、。
いつもしつこいくらいに僕に話しかけてくる茜さんが今日は珍しく静かなので、僕は趣味である絵を描く手を止めた。
僕は絵を描くのが好きだ。
でも、今まで僕が絵を描くことを許してくれる人はいなかった。
屋上なら、誰にも文句を言われない。
茜さんは、文句を言うどころか、むしろ僕の絵をうまいと褒めてくれた。
、、、とっても、嬉しかった。
こんなに心が熱くなったのはいつぶりだろうかと自問する。
それは、とても幸せな問いであった。
と、そんなことは置いといて、、、
僕は茜さんの方を見てぎょっとした。
もうそこには僕の良く知る茜さんはいなくて、ぼうっとした光のない目で校庭を見下ろしている茜さんの姿だけがあった。
いつもだったら好奇心の光を爛々と光らせている茜さんの瞳はまるで生気がなくて、何かを諦めてしまったような、それでいてまだ希望は捨てられない、、、そんな漫画の主人公のような顔をしていた。
僕は慌てて呼びかけるけれど応答はなし。
本当にどうしたんだ。
焦燥感だけが僕の頭を支配していく。
やっと僕の声に気付いたようだ。
どう考えても無理をしているようにしか見えない。
顔を見れば嫌でも分かる。
どんどん声は小さくなっていく。
どうしても納得いかない僕は、ジト目で茜さんを睨む。
そう言って、困ったように眉を下げながら茜さんは微笑む。
全く言っていることが分からないけれど、今茜さんが笑顔ならそれでいいや。
僕のこんな気の緩みが茜さんの死を招いた一因なんじゃないかと、今になって思うのだ。
だからといって、この場でどうするのが正解だったのかなんて僕には分からない。
だから、後悔はしていない、、、と言ったら嘘になるけれど、自分を責めることも出来ないでいる僕は弱虫なのかもしれないね、、、。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。