奏汰side
薄暗い部屋。
線香の香り。
スーツにせいで首元が苦しい。
スーツを着たのは入学式以来だ。
通夜の会場には、大人がいっぱいいた。
人脈があるんだなぁと思う。
それと同時に、僕って茜さんのことを何も知らなかったんだと思い知らされる。
所詮僕は茜さんの『2人だけの秘密』という言葉に踊らされ、そして自惚れていたのだろう。
僕は受付のお姉さんに香典を渡す。
香典の封筒の中には一度四つ折りにした一万円札が入っている。
表面には『御霊前』と厳かな雰囲気を感じるような筆で書かれた字。
その下には僕の母の名前が記されている。
僕は母の代理での出席なのだ。
会場へ進むと大きな棺桶が佇んでいた。
僕もお線香をあげなければと進み出る。
その時に気付いたのだけれど、棺桶の上には写真が置かれていた。
それは見慣れた茜さんの制服姿。
あれ、、、?
これって、、、?
そう、僕が茜さんのスマホで撮影したものだ。
おそらく茜さんのスマホの中にあった写真を現像したんだろうけど、、、なんでだろう。
単純な疑問だ。
、、、もっといい写真はなかったんだろうか?
こんな僕が撮った大してうまくもない写真より、いい写真はいくらでもある気がする。
家族写真とか、、、。
偶然か、、、
そんなわけないだろ。
線香をあげた僕は椅子に座り、思考を素早く切り替えた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。