第2話

渋谷区
214
2021/07/24 11:10





このゲームは販売が終了しました。





ちょっとショックだった。
いや、ほんのちょっとだけ。

今はもう触ってすらいないゲームだが、昔よく徹夜してまでやってたな、と思い返した。

家に一応ガラクタとして残っていたはず。





プレミアがつきそう。

売る気は無いが。
記念に取っておこう。
なんの記念か分からないが、

そう思った。








東京の深夜はやっぱり明るい。



地元の田舎と比べたらそりゃそうか。
こんなゲーム専門店みたいなお店もない。
ブックオフのような中古品を取り扱ってる店しかなかった。

すっかり行きつけの店になってしまった。



自動ドアを通り抜け即座に向かったのは俺が最近ハマっているカードゲームの目の前。
安いカードからレアで高いカードまでずらりと並んでいる。





俺のお目当てはこのカード。
このカードのためにバイト増やして節約までしてやった。
身を削るほどに俺はハマっていたのだ。



いつもいる店長のおじちゃんに声をかけに行こうとした時、丁度おじちゃんが来た。

隣にはお客さんらしき人。
高身長で栗色の髪の毛をしたかっこいい人がいた。





hj すみません、これください。



あ、俺が狙ってたカード…。



かっこいい人に取られてしまった。
心情は顔に出ない方だが、あまりにも欲しかったのか顔に出てしまったらしく、





hj あ、このカード狙ってましたか…??

tn いや、全然!こっちのカード見てて、





あまりにも図星で動揺してしまった。



俺は慌ててその隣のもっと高いやつを指さしてしまった。

店長さんいるし、買わなきゃと思ってしまうのが良くも悪くも俺の癖だった。








hj あぁ、これ確か…



なにやら重たそうな鞄をゴソゴソと掻き回すように漁っていた。


取り出したのは分厚くなった今でもはち切れそうな勢いのカード入れだった。





ガチ勢か…。
少し引いてしまったが、それは一瞬のことだった。

彼は沢山のカードの中から迷わず1枚引いて俺に差し出した。





hj 2枚持ってるから1枚どうぞ。

tn え!いや、そんな悪いです。



こんな高級なカードを2枚持っているのにも、見ず知らずの人に簡単に渡してしまうことも驚きを隠せなかった。



hj 2枚も使わないので貰ってくれると有難いです。


謙虚に笑いながらカードを渡された。


tn い、いくらになります…?

hj お金なんていいですよ!では、おやすみなさい。








逃げるように会計を済ませて立ち去ってしまった。



一体どんな仕事をしているのだろう。
マスクで目元しか見えなかったから分からないが、モデルかなんかなのかな。
それともどっかの社長さんなんだろうか。



妄想が膨らむ。




彼の背中を目で追った。
結局お目当てのカードは手に入らなかったが
このカードは宝物だ。







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