このゲームは販売が終了しました。
ちょっとショックだった。
いや、ほんのちょっとだけ。
今はもう触ってすらいないゲームだが、昔よく徹夜してまでやってたな、と思い返した。
家に一応ガラクタとして残っていたはず。
プレミアがつきそう。
売る気は無いが。
記念に取っておこう。
なんの記念か分からないが、
そう思った。
東京の深夜はやっぱり明るい。
地元の田舎と比べたらそりゃそうか。
こんなゲーム専門店みたいなお店もない。
ブックオフのような中古品を取り扱ってる店しかなかった。
すっかり行きつけの店になってしまった。
自動ドアを通り抜け即座に向かったのは俺が最近ハマっているカードゲームの目の前。
安いカードからレアで高いカードまでずらりと並んでいる。
俺のお目当てはこのカード。
このカードのためにバイト増やして節約までしてやった。
身を削るほどに俺はハマっていたのだ。
いつもいる店長のおじちゃんに声をかけに行こうとした時、丁度おじちゃんが来た。
隣にはお客さんらしき人。
高身長で栗色の髪の毛をしたかっこいい人がいた。
hj すみません、これください。
あ、俺が狙ってたカード…。
かっこいい人に取られてしまった。
心情は顔に出ない方だが、あまりにも欲しかったのか顔に出てしまったらしく、
hj あ、このカード狙ってましたか…??
tn いや、全然!こっちのカード見てて、
あまりにも図星で動揺してしまった。
俺は慌ててその隣のもっと高いやつを指さしてしまった。
店長さんいるし、買わなきゃと思ってしまうのが良くも悪くも俺の癖だった。
hj あぁ、これ確か…
なにやら重たそうな鞄をゴソゴソと掻き回すように漁っていた。
取り出したのは分厚くなった今でもはち切れそうな勢いのカード入れだった。
ガチ勢か…。
少し引いてしまったが、それは一瞬のことだった。
彼は沢山のカードの中から迷わず1枚引いて俺に差し出した。
hj 2枚持ってるから1枚どうぞ。
tn え!いや、そんな悪いです。
こんな高級なカードを2枚持っているのにも、見ず知らずの人に簡単に渡してしまうことも驚きを隠せなかった。
hj 2枚も使わないので貰ってくれると有難いです。
謙虚に笑いながらカードを渡された。
tn い、いくらになります…?
hj お金なんていいですよ!では、おやすみなさい。
逃げるように会計を済ませて立ち去ってしまった。
一体どんな仕事をしているのだろう。
マスクで目元しか見えなかったから分からないが、モデルかなんかなのかな。
それともどっかの社長さんなんだろうか。
妄想が膨らむ。
彼の背中を目で追った。
結局お目当てのカードは手に入らなかったが
このカードは宝物だ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。