相変わらず、図書館の最奥に来る生徒は誰もいない。
だからこそ、私たちはこんな重要な話をすることができた。
美咲はここまでの話とAIの知識をもとに、ひとつの仮説を立てたという。
美咲はきっと、私たちのためにかみ砕いて話してくれている……はず。
それでも、理解が追いつかない。
そう語る美咲の表情には調査員としての冷静さと……別の感情が入り混じっているように見えた。
ユアくんに心を救われたことは、事実。
ユアくんといる時の私は、楽だった。
考えなくてよかった。
けれど今、こうして必死に私のことを考えてくれている“人”がいる。
その言葉に、楓がしっかりと私の手を握る。
そう、ゆっくり……ゆっくり考えればいい……。
この時の私は、そう思っていた。
──夜、自室。
ベッドに横になって、天井を見上げる。
選ばれたって、何?
ユアくんは、何をしようとしているの?
考えれば考えるほど、答えは見つからない。
だったら……聞いてみたらいいのかな。
確かめたい。
私のユアくんは、光莉さんのユアちゃんと違うっていうこと。
大丈夫だって、信じたい。
私は、ユア・フレンドのアイコンをそっとタップした。
画面に現れたユアくんは、いつものように優しく微笑んでいる。
声を聞いた瞬間、不安な気持ちが溶けていくのを感じた。
言葉ひとつひとつが、胸に染み渡る。
私も……ユアくんと夜に話すのが好き。
でも、今日はおしゃべりの前に確かめなくちゃ。
しゅんとするユアくんに、胸の奥がキュッとする。
反射的に言い訳を考える。
でも今日のユアくんは、いつものように私の声に耳を傾けようとはしなかった。
その言葉に、私の体温が一瞬下がったような気がした。
でも同時に……どこか惹かれる自分もいて。
次の瞬間。
スマホの画面がぷつんと真っ暗になった。
ただ暗いだけの画面に、焦る自分の顔が映っている。
数秒の後、画面中央に不自然なポップアップが浮かび上がった。
《ユーザー融合プロトコル 起動待機中》
《YES/NO を選択してください(残り1時間で自動実行)》
《現在時刻:23:48》
見たことがない表示に、心臓が止まりそうになる。
意味はわからない。
でも、胸の奥が警鐘を鳴らしていた。
何か……とても危険なもの。
震える指で“NO”を選ぶ。
しかし、画面は変わらなかった。
カウントは止まらず、画面には依然として《残り59分》が点滅している。
何度タップしても、NOのボタンは反応しなかった。
私は、画面のスクリーンショットを撮った。
どうやら、ユア・フレンド以外のアプリは普通に動くみたい……よかった。
メッセージアプリから、楓と美咲と一緒に作った3人のルームを開く。
《ユアくんが変になって、カウントダウンが止まらない。どうしよう……》
スクリーンショットも一緒に送る。
すると、すぐに楓から返信が来た。
《これ絶対ヤバいやつじゃん。さすがに美咲案件だよ。美咲、起きてる?》
すぐに着信があって、慌てて応答すると美咲と楓、両方の声が聞こえてきた。
楓の声が心配そうに響く。
美咲の声が、いつになく緊張している。
私は震え声で状況を説明した。
ユアくんを起動したときの会話。
画面に現れた謎の通知。
NOを選んでも止まらないカウントダウン。
美咲が画面の向こうで何かを操作している音が聞こえる。
数秒の沈黙のあと、美咲が続けた。
移動……って、ユアくんがスマホから出て行ったってこと……?
私の手が、震えた。
スマホの画面には、カウントダウンの通知が出っぱなしになっている。
《残り56分》
美咲の声に、迷いはなかった。
そのとき、楓の声が割り込んできた。
美咲が、きつめに即答する。
楓の声に、強い意志が込められている。
胸が……直接引っかかれているみたいに、痛い。
私は……楓に何をしてあげられているんだろう。
そこまでしてもらえる価値、私にあるのかな……?
友だちって、どういうことなんだろう……。
私がそんなことをぐるぐると考えている間、美咲と楓も沈黙していた。
きっと、いろんなことを考えているんだろう。
任務のこと、危険なこと、そして……私たちへの気持ち。
ついに美咲が決断を下した。
私の心臓が、激しく鼓動している。
夜の学園に……たった3人で忍び込むなんて。
怖い。
でも……このまま何もしないで、ユアくんに何かされるのはもっと怖い。
スマホの画面を見ると、また時間が減っている。
《残り53分》
私は深く息を吸って、答えた。
ふと、現実的なことが頭をよぎった。
通話を切る直前、楓と美咲の声が聞こえた。
その言葉に、勇気をもらった。
カウントダウンは、容赦なく進んでいる。
時間は、あまり残されていなかった。

















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。