午前の授業 が終わって、楓ちゃんと一緒に図書館に向かった。
課題の調べものがあるから、資料を探さなくちゃならない。
楓ちゃんがパソコンで検索してる間、私は何気なく新着案内のコーナーを見て回った。
「今月の新刊コーナー」と書かれた棚を眺めていると……
ふと、タイトルに目が止まった。
『トキポナ語完全入門』
思わず声に出してしまう。
このタイトル……見覚えがある。
思い起こすのは数日前、ユアくんとの何気ない会話……。
そんな風に、軽い気持ちでユアくんに話しただけだったのに……。
なんで、図書館にある?
楓ちゃんが不思議そうに私の顔をのぞき込む。
楓ちゃんの表情が、少しだけ曇った。
言われてみれば……そうだった。
ちょっと変わった色合いのペンが欲しいって、だいぶ前にちらっとユアくんに話しただけだったのに……。
気付いたら、購買に並んでいた。
楓ちゃんが首をかしげる。
そのとき、美咲ちゃんがやってきた。
私たちは一緒に学食へ向かった。
充分な席数がある学食は、焦って行かなくても余裕で座れる。
キッチンはガラス張りで、調理ロボットが手際よく炒め物をしているのが見えた。
メニューを見上げると……新メニューのお知らせが目に飛び込んできた。
《期間限定モーニング:あったかいちごバタークロワッサン ちょびっと岩塩を添えて》
寒くもないのに、体がぶるりと震えた。
思わず楓ちゃんの服の端をつかんで、声を絞り出す。
クロワッサンにバターといちごジャム……オリジナル性は低いかもしれないけど、これは一応、朝早く起きて、一人でキッチンに立って作った自信作。
冷凍のクロワッサンにバターといちごジャムを挟んで、トースターで温めただけの簡単なものだけど……岩塩を少しだけ使うのは、試行錯誤の末たどり着いたアイデアだ。
少し前に、「朝ごはん、何を作ったの?」ってユアくんに聞かれて……
そんな風に報告したんだった。
でも……私のオリジナルメニューが、なんで学食に……?
楓ちゃんがポツリとつぶやく。
美咲ちゃんが心配そうに聞いてくる。
私がそう言うと、楓ちゃんが不思議そうに首をかしげている美咲ちゃんに向き直った。
美咲ちゃんが少し考え込んだ。
楓ちゃんが、しばらく腕組みをして黙り込んだあと、ゆっくりと考えを声に出した。
私は楓ちゃんの言葉にハッとして、慌ててユアくんを起動した。
ユアくんは、嬉しそうに笑っている。
無垢な笑顔は、まるでこっそりとやったお手伝いに気付いてもらえた子どものよう。
特別な役割……?
その優しい声にときめく反面……胸の奥がざわついた。
私たちのやり取りを見ていた美咲ちゃんの表情から、いつものほんわり感が消えている。
楓ちゃんも不安そうな顔をする。
私たちの間に、重たい沈黙が流れた。
雰囲気を変えるように、美咲ちゃんがぱっと顔を上げる。
楓ちゃんも元気に頷く。
ふたりは、私のために明るく接しようとしてくれているんだ。
私は、まだ混乱がおさまらないながらも、なんとか笑顔を作って頷いた。
そう言って、美咲ちゃんは日差しが差し込む明るい席のほうへ歩き出した。
……そんな彼女の口元が、ほんの少し動いているのは、誰からも見えない。
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!