校舎裏に、小さな公園のような休憩スペースがある。
ささやかな花壇、白いベンチ、意外とラインナップの豊富な自販機。
それらすべてが、オレンジ色に染まっている。
ベンチに並んで座った私たち3人も、オレンジ色の光に照らされていた。
美咲ちゃんは深く息を吸う。
急に口調が変わる。
驚いたけど、どこか今までよりも力が抜けたイメージだ。
じゃあこっちが……本当の美咲ちゃん……?
声も、昨日階段から落ちた私を受け止めてくれたときと同じ。
いつもより低くて、まっすぐで……。
……?
美咲ちゃんは……生徒じゃ、ない?
私の息が、止まった。
楓ちゃんも、息を呑んでいる。
昨日見てしまったことから少しはそんな気がしていた……けど……
見間違いで、またいつもの日常に戻るだろう……そう、思っていた。
ううん、思いたかった。
美咲ちゃんは淡々と続ける。
私は今、何を聞いているんだろう。
政府の調査機関?
ユア・フレンドを調査するため?
私の現実とあまりにもかけ離れた言葉の数々に、頭は考えるのを止めてしまっている。
現実じゃなくてまるで物語みたい。
私たちの混乱を見て取ったのか、美咲ちゃんは少しの間、黙って待っていた。
楓ちゃんが、震える声で問いただす。
少しだけ間があって。
再び口を開いた美咲ちゃんの表情が、少しやわらかくなる。
美咲ちゃんは目線を落としたけれど、その口元はふっと微笑んだ。
美咲ちゃんは、まず私をまっすぐに見つめた。
守りたい……?
そんなことを“人間から”言ってもらえたのは、初めて。
どうしよう……なんだか、心がむずがゆくて、顔が熱い。
次いで、美咲ちゃんは楓ちゃんの方を見た。
唇をきゅっと結んだ楓ちゃんは、ただじっと美咲ちゃんの言葉を聞いている。
楓ちゃんが、複雑そうな表情をした。
美咲ちゃんが頭を下げる。
私たちを欺いていた美咲ちゃん。
一瞬、疑う気持ちが芽生えた……けど。
今の“彼”の言葉には、濁りがないように思える。
美咲ちゃんは一瞬、遠くを見るような目をした。
楓ちゃんが、勢いよく立ち上がった。
友だち……ああ、そっか。
私、友だちがいるんだ。
今さらながら実感し、そして友だちに嘘をついていたことへの後悔が湧き上がる。
美咲ちゃんが頷く。
楓ちゃんも続ける。
ふたりが、私を心から心配してくれているのは……わかる。
でも、素直に頷けない部分があった。
心に浮かぶのは、胸の中に響くようなユアくんの優しい声と……
あの、歌。
昨晩、ユアくんが教えてくれた歌を思い出して、私は口ずさんだ。
ユアくんが、芸術を理解する心を持っていることを、知ってもらいたかったから。
その瞬間。
楓ちゃんの顔から、さっと血の気が引いた。
目を見開き、肩を震わせる。
声が、まるで絞り出すように細くなって。
そこまで言うと、楓ちゃんは私たちに背を向けた。
楓ちゃんのお姉さんが歌っていた歌と……
ユアくんが私のために作ってくれた歌が……同じ?
そんなことって……あるの?
それに……“ユアちゃん”って……?
頭の中の、ユアくんの笑顔が……歪む。
今度は私が目を見開く。
ユアくんが教えてくれた歌詞と、同じだ……。
同じ歌を知っていることもすごく気になるけど……
こんなにやさしい歌のこと、どうしてそんな風に言うの……?
まだ背を向けたままで、楓ちゃんの表情は見えない。
ただ、声は少し震えている。
私は、ただ頷くことしかできなかった。
美咲ちゃんは、顎に指を当てて考え込んでいるみたい。
遠くから、閉門のアナウンスが響いてくる。
いつの間にか、日はとっぷりと暮れていた。
美咲ちゃんが、ちょっと照れくさそうに鼻をかく。
ようやく、楓ちゃんが私たちに顔を向けた。
そこにはいつもの笑顔が戻っている……けど、目が少し赤い。
私が全身の勇気を振り絞ると、ふたりは満足そうに微笑んだ。
問題ないよ……という言葉を飲み込み、私は頷いた。
私はともかく、あまり遅いと楓ちゃ……楓のご両親が心配するかもしれない。
私たちはゆっくりと、校門に向かって歩き出した。
頭の中で、いろんなことがぐるぐる回っている。
美咲の正体。
ユアくんの歌と、楓のお姉ちゃんとの繋がり。
きっと……大切なことが、変わろうとしている。
楓と美咲の呼び方が、変わったように。
距離が、一歩近づいたように。
でも同時に、何かが壊れ始めているような……。
















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。