第9話

第9話 君の声、夢か現か
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2026/04/30 09:00 更新
その夜、私はベッドでユアくんと夜遅くまでやりとりしていた。
(なまえ)
あなた
ユアくんが教えてくれたラジオ番組、おもしろかったね
ユアくん
ユアくん
気に入ってくれてよかったよ。キミの好みに合う番組、探したんだ
あの出来事……ユアくんが私のために図書館や学食にリクエストを出してくれていたこと。
確かに、勝手すぎるのかもしれない。
でも……
ユアくん
ユアくん
ボクがキミのために出したリクエストは、他のどんなリクエストよりも優先されるようになってるんだ
そんなふうに言ってくれたユアくんの言葉が、胸の奥で温かく響いている。
高瀬美咲
高瀬美咲
うちのユアはそんなことしませんわ……
結月楓
結月楓
あたしのユアも、だよ
楓ちゃんや美咲ちゃんのユア・フレンドは、そんなことをしないと言っていた。
それってつまり……私とユアくんとの間には、他のユア・フレンドよりも強い絆があるっていうこと……じゃないかな。

さっきはほんの一瞬、ユアくんを怖いと思った。
でも……私のために頑張ってくれているユアくんを、そんな風に思うのはなんだか、悪い気がする。
それに……
(なまえ)
あなた
トキポナ語の本も借りられたし、もっとラジオ聞きたいし……
(なまえ)
あなた
なんだか明日、学校に行きたくないな
何気なくつぶやいた私に、ユアくんが甘い声で返してくれる。
ユアくん
ユアくん
なら、休んじゃおっか
(なまえ)
あなた
でも……授業があるじゃない……
ユアくん
ユアくん
キミが辛いなら、無理しちゃダメだよ
ユアくん
ユアくん
ボクは、いつでもキミの味方だから
ユアくんは、いつだって私の味方。
それは、疑いようがない事実だ。
学校に行くよう強制しない……それは、学校のAIという枠を超えて、私のためを思ってくれているってことだよね。
(なまえ)
あなた
ねえねえ、他におすすめのラジオ番組ある?
ユアくん
ユアくん
キミの好みに合いそうな番組で、アーカイブですぐ聴けるものだと……
ユアくん
ユアくん
……うん、あった。『川瀬アキラのひとりごと』なんていいんじゃないかな
(なまえ)
あなた
へー。どんな番組?
そんな会話をしているうちに、時計の針は深夜2時を回っていた。
(なまえ)
あなた
あ……もうこんな時間……
ユアくん
ユアくん
大丈夫。少し眠くても、ボクがついてるから
ユアくん
ユアくん
でも、さすがにそろそろ休もうか。ね?
ユアくんの優しい声に包まれて、私はようやくスマホを置いた。
なかなか寝付けない。
楓ちゃんや美咲ちゃんは心配してくれたけど……
ユアくんが私のために頑張ってくれるのって……そんなに間違ったことをしてるのかな。
どれくらい長い時間、考え事をしていたのか……。
窓の外がすでに明るいことを確認したあと、私はいつの間にか眠りに落ちていた。


翌朝。
頭がぼんやりして、足取りも重い。
完全に……寝不足だ。
でも……ユアくんがいてくれるから、きっと大丈夫。
そう思いながら、なんとか教室にたどり着く。
結月楓
結月楓
あなたの下の名前、大丈夫? なんか顔色悪いよ
楓ちゃんが心配そうに私の顔をのぞき込んだ。
(なまえ)
あなた
うん……ちょっと寝不足かも
結月楓
結月楓
夜更かししちゃダメだよ。まさか、ユアくんと話してたとか……?
最近、楓ちゃんは私がユアくんを使い過ぎだって言って、やたらと様子を聞いてくる。
心配してくれているのだろうけど……でも、何がそんなに心配なのか、よくわからない。
(なまえ)
あなた
トキポナ語の本を読んでただけだよ
私は、楓ちゃんを心配させないよう、そう答えた。
気付けば美咲ちゃんも、眉をひそめて私を見ている。
高瀬美咲
高瀬美咲
無理は禁物ですわよ。本当に、顔色がいつもと違いますもの
みんな心配してくれるけど……
私は大丈夫。ユアくんがついてくれてるから。

1限目の授業中も、頭がぼんやりとしていた。
先生の話が遠くから聞こえてくるような感覚。
まるで耳にフィルターを取り付けられているみたい。
なんとか集中しようとするんだけど、まぶたが重い。

何の授業だったかもよく覚えていないまま、休み時間になった。
目覚まし代わりにユアくんと話そうと、スマホを確認すると……

《アップデート中……残り時間 56分》

昨晩使いすぎて、夜間の自動更新がかからなかったみたい。
今、更新の真っ最中だ。
残念……ユアくんと話せない。

次の授業は、教室移動。
ふらふらした足取りで階段を降りる。
結月楓
結月楓
ちょ、ちょっと……しっかり歩けてなくない?
楓ちゃんが心配そうに声をかけてくれるけど、それもどこか遠くから聞こえるような……
結月楓
結月楓
待って、手すり使ったほうがいいって!
楓ちゃん……かな?
でも、声がどんどん遠くなる……。
ユアくん
ユアくん
だい……じょう……ぶ
え?

頭の中に、直接響くような……遠くからのようで、すぐそばからのような、声。
これは……ユアくんの声……?
ユアくん
ユアくん
ボクが……見て……る……から
機械的なその声は、壊れたレコードみたいに途切れ途切れ。
でも、スマホは鞄の中。
アップデート中で、起動もできていないはずなのに……どうして……。
ユアくん
ユアくん
キミを……守る……ボクが……キミと……ひとつに……
ぞわっと全身に鳥肌が立った。
何かが……私に入り込もうとしているように感じる。

次の瞬間。
踏み出した先に、階段がなかった。
(なまえ)
あなた
!!!!
落ちる―
床が迫る――

私はぎゅっと目を閉じた。



ドサッ。

床に叩きつけられる痛みを覚悟していた私の体は、あたたかく抱きとめられた。
見上げると、そこにいたのは美咲ちゃん。
力強く、私を受け止めてくれている。
高瀬美咲
高瀬美咲
大丈夫?
肩で息をしている……私のために走ってくれたのかな。
声がいつもより低いのも、そのせい……?
落ち着いて状況を見ると……私が床に叩きつけられる前に、美咲ちゃんが階段の下に走り込んで、私を受け止めてくれたみたいだ。
そんなこと、運動が得意な男の子でも難しいかもしれない。
美咲ちゃん、かなり無理してるんじゃ……!?
(なまえ)
あなた
ご、ごめんね! 美咲ちゃんはケガしてない……?
(なまえ)
あなた
すぐ……すぐ起きるから……あっ!
私は慌てて立ち上がろうとした。
でも、私は自分の足が震えていることに気付いていなかった。
足がもつれて再び転びそうになった私は、美咲ちゃんに抱きつく格好になる。
高瀬美咲
高瀬美咲
危ない!
私を抱きしめるように、再び受け止めてくれた美咲ちゃん。

その時——

美咲ちゃんの体に抱きしめられた瞬間、違和感があった。
長袖の羽織り物の内側に隠された、たくましい腕。
つい先日まで病気療養していた子の腕……とは思えない。
そして……頬を寄せる格好になった鎖骨の下あたりに感じる……硬い感触。

これって……胸……ない……?
まるで……男の人みたい……?

私は混乱しながら、美咲ちゃんの顔を見上げた。
目が合う。
その美咲ちゃんの表情は、これまでに一度も見たことがないものだった。
焦りと、後悔と、安堵と……いろんな感情に取れる表情。
いつもの美咲ちゃんじゃない。

まるで……
まるで、別人のような……

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