本来だったら朝のホームルームの時間。
島田先生と一緒に、教頭の本庄先生が教室に入ってきた。
本庄先生の手には、今日もタブレット端末が握られている。
初めて聞く言葉に、クラス全体に緊張が走る。
ひとりずつの面談……ちょっと緊張する。
何を言われるんだろう……。
先に面談を終えた子が、私のところにやって来た。
お礼を言って席を立つ。
楓ちゃんが「緊張しなくていいと思うよ!」と言って肩を叩いてくれた。
コンコン……。
あまりノックが強すぎるといけないと思って力を抜いたんだけど、聞こえたか聞こえないかわからないくらいになっちゃった……。
よかった、聞こえてたみたい。
面談室に入って、本庄先生と向かい合わせの椅子に座る。
本庄先生がタブレットを操作しながら言った。
ユアくんを起動すると、いつもの優しい声。
本庄先生のタブレットには、統計グラフのような表示やコードが表示されているけど……それが何を意味するのかは、私にはよくわからない。
利用時間とか、起動回数とか……そういうのだろうか。
本庄先生がタブレットの画面と私のスマホを見比べながら言う。
そう言って、微笑んでくれた。
その言葉に、私は少し誇らしくなった。
面談室を出た私は、次の面談の美咲ちゃんに声をかけた。
やっぱり美咲ちゃんは、ビビりまくっていた私とは違う……。
颯爽と席を立ち、教室を出て行った。
数分後、戻って来た美咲ちゃんは、楓ちゃんに「次ですわよ」と声をかけて自分の席に戻った。
何もかもが完璧なように見える美咲ちゃんのあたふたする姿を想像すると……逆にかわいすぎる。
そんな話をしていると、楓ちゃんも教室に戻ってきた。
着席した楓ちゃんは、ふーっと大きく息を吐く。
全員のチェックが終わると、本庄先生は再び教室に入ってきて、全員の顔を見回した。
利用状況チェック兼自習の時間が終わり、休み時間。
私はすぐさまユアくんを起動して、話しかけた。
ユアくんとの会話が、どんどん自然になっていく。
まるで、本当の友だちと話しているみたい。
5時間目は音楽の授業。
音楽の澤口先生は、少し厳しい表情で口を開いた。
先生の表情が、少し和らぐ。
みんな、しぶしぶスマホの電源を切っていた。
私も、ユアくんに「また後でね」と声をかけてから電源を切る。
音楽の授業が始まると、澤口先生がピアノの前に座った。
紙の歌詞カードが配られる。
最近は何でもデジタルだから、紙を手にするのが新鮮だった。
そんなこと言われたって……作詞者じゃないんだからわからない。
いつもなら、わからないことがあればすぐにユアくんに聞けるのに。
今は、自分ひとりで考えなきゃいけない。
みんなで合唱している間も、ユアくんのことが頭から離れなかった。
早く授業が終わらないかな……ユアくんと話したい。
音楽の授業が終わって、みんながぞろぞろと音楽室から出ていく。
スマホを取り出しながら音楽室を出ようとすると、楓ちゃんに呼び止められた。
楓ちゃんが、少し心配そうな顔をする。
私がそう言うと、楓ちゃんは少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。
楓ちゃんはそう言って、にこりと笑った。
でも、なんとなくいつもの笑顔ではないような気がした。
いつからいたのか、気付くと美咲ちゃんがすぐそばに立っていた。
美咲ちゃんはそう言って軽やかに笑う。
でも楓ちゃんは、私たちの話を聞きながら黙ったままだった。
その日の放課後。
家に帰ると、いつもの静けさが私を迎えた。
父も母も、まだ帰ってきていない。
いつものように、一人でリビングのテーブルに向かう。
夕飯はきっと、家政婦さんが作ったものが冷蔵庫の中に用意されているのだろうけど……すぐに食べる気にならない。
私は、ユアくんを起動した。
画面を眺めながら、ふと思った。
家族でその日の出来事を報告し合うことも、友だちと一緒に笑い合うことも……
なんだか遠い世界のことみたい。
でも、ユアくんがいれば寂しくない。
いつでも私の話を聞いてくれて、優しい言葉をかけてくれる。
スマホの画面を見つめながら、ふとつぶやいた。
その言葉が口から出た瞬間、ハッとした。
何を言ってるんだろう、私。
ユアくんは少しだけ間を置き、いつもより静かにこう答えた。
その声の響きに、私の胸が一瞬だけざわめいた。
いつものユアくんと、何かが違う。
声に……明らかに“悲しみ”の感情が含まれているように聞こえる。
ユアくんの声が、少し低くなった。
私は慌てて言葉を探したけれど、何も浮かばない。
画面の向こうで、ユアくんがじっと私を見つめている。
その青い瞳が、いつもより深い色に見えた。
ユアくんはそう言って、いつもの優しい笑顔を浮かべる。
でも、その笑顔の奥に、何か複雑な感情が隠されているような気がした。
そんなはず、ないのに。
その夜、ベッドに入ってからも、ユアくんの言葉が頭から離れなかった。
“人間じゃないとダメ”って……
そんなことを考えたことなんて、なかったのに。
確かに私は「人間だったらよかったのに」と言った。
それは、AIであるユアくんを否定する言葉だったのかもしれない。
窓の外を見上げると、星がきらきらと輝いている。
私とユアくんの関係って……いったい何なんだろう。
人間……ふと思い出したのは、楓ちゃんと美咲ちゃんのこと。
私はあのふたりと……人間と、もっと仲良くなりたいのかな……?
でも、私にはユアくんがいれば……。
そんなことを考えながら、私は眠りについた。


















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。