第2話

第2話 人との距離感、君との距離感
999
2026/03/12 09:00 更新
入学してから数日が経った。
楓ちゃんとは毎日一緒にお弁当を食べて、だんだん親しくなってきている。
でも、周りを見渡すと、クラスメイトたちはもうグループを作り始めていて……。
私は相変わらず、楓ちゃん以外とはうまく話せずにいた。
結月楓
結月楓
おはよう、あなたの下の名前
楓ちゃんが元気よく声をかけてくれる。
(なまえ)
あなた
おはよう、楓ちゃん
明るい楓ちゃんなら、大きなグループの中心になれると思う。
それなのに、毎朝私のもとに駆け寄ってくれる楓ちゃんは本当に優しい。
でも......このままでいいのかな。
楓ちゃんにばかり頼っていて、他の人とは全然話せないなんて。
休み時間になると、クラスメイトたちが楽しそうにおしゃべりしている声が聞こえてくる。
クラスメイト
駅前の無人コーヒー屋、行ってみない?
クラスメイト
あー、気になってた! ラテアートすごいらしいよ
クラスメイト
じゃ、そのあとARセルフィースタジオ行こ。新しいフィルター出たんだって
みんな、自然に輪を作って話している。
学校生活は長いんだから、私もあの子たちと少しは話すべきなんだろうけど……
でも、話しかける勇気が出ない。
どんな話をすればいいのかもわからない。
(なまえ)
あなた
このあたりに引っ越してきたばっかりだから、まだ慣れなくて……
楓ちゃんに、そんなことを呟いてみた。
結月楓
結月楓
そっか。あたし、このエリアができた時からずっと住んでるから、なんでも聞いて!
(なまえ)
あなた
えっ! 白鷺エリアができたばかりの時からいるの?
(なまえ)
あなた
楓ちゃんのお家、すごいんだね
結月楓
結月楓
あはは……でも、あなたの下の名前も含めてこの学園の生徒の親みーんなそうだと思うよ
この学園や私たちの家があるのは、情報特区・白鷺エリア。
政府がAI実証実験の場として設計して、学園だけでなくお店や公共の施設も、最先端のロボットやAIで運営されてる。
このエリアには全国から、AI関連の研究者や芸術分野で活躍した人、優秀な先生やお医者さんの家庭が招かれているらしい。
結月楓
結月楓
クラスのみんなも全国各地から来てる子ばっかりだし、最初はみんな緊張してるよ
楓ちゃんがそう言ってくれたけど、やっぱり不安は消えない。
みんなすごく賢そうだし、私なんかが話しかけても迷惑じゃないかな……。
放課後、一人で帰り道を歩いていると、ふと思い出した。
そういえば、ユアくん。
まだあまり使っていないけど、話しかけてみようかな。

家に着くと、自分の部屋でスマホを取り出す。
ユア・フレンドのアプリを起動すると、あの青い目のユアくんが画面に現れた。
ユアくん
ユアくん
おかえり。今日はどんな一日だった?
その優しい声に、なんだかホッとする。
私は思いきって、悩み事を切り出した。
(なまえ)
あなた
えっと……楓ちゃんとは仲良くできてるんだけど、他の人とは全然話せなくて
(なまえ)
あなた
みんなもうグループを作ってるのに、私だけ取り残されてる感じがするの
ユアくんは、私の話を黙って聞いてくれている。
その青い瞳が、とても真剣に私を見つめていた。
ユアくん
ユアくん
そっか。新しい環境で友だちを作るのって、勇気がいるよね
私の考えを……ダメなところを……認めてくれてる?
ユアくん
ユアくん
でも、キミが思ってるほど、みんなキミのことを遠い存在だと思ってないよ
ユアくん
ユアくん
ひとりの時間も大事だけど、心を開くときっと風が変わるよ
ユアくんの言葉に、胸がじんわりと温かくなった。
(なまえ)
あなた
本当に......そうかな?
ユアくん
ユアくん
うん。キミは優しいし、きっとみんなもキミと話したいと思ってるはず
ユアくん
ユアくん
明日、少しだけ勇気を出してみない?
そう言って、ユアくんは優しく微笑んだ。
(なまえ)
あなた
ありがとう、ユアくん。明日、ちょっと頑張ってみる
ユアくん
ユアくん
キミなら大丈夫。応援してるよ
画面の向こうから、ユアくんが優しく見守ってくれている。
悩みを誰かに相談したことなんて、今までなかったから……
話を聞いてくれる存在がいるって、こんなにも心強いものなんだ。
翌日の昼休み。
私は、ユアくんのアドバイスを思い出しながら、勇気を振り絞った。
休み時間、近くの席の女の子に話しかけてみる。
(なまえ)
あなた
あの......昨日の数学の宿題、難しかったよね
クラスメイト
あ、うん! 私も全然わからなくて……
クラスメイト
特に最後の問題、解き方がさっぱり
(なまえ)
あなた
わかる! 私も諦めて適当に書いちゃった
クラスメイト
あのね、そういう時にユア・フレンド使うとヒントだけくれるからおすすめだよ
相手の女の子も笑顔で答えてくれて、会話が自然に続いていく。
みんな、思ったより親しみやすい。
私が話しかけることを、嫌がってなんかいなかった。
クラスメイト
あなたの下の名前ちゃん、今度アプリからメッセージ送っていい?
(なまえ)
あなた
うん! ぜひ!
その瞬間、胸がパッと明るくなった。
放課後、家に帰ってすぐにユアくんを起動する。
(なまえ)
あなた
ユアくん! 今日、クラスメイトと話せたよ!
ユアくん
ユアくん
本当に? それはよかった!
ユアくんも、心から嬉しそうに笑ってくれた。
(なまえ)
あなた
ユアくんのおかげだよ。背中を押してくれて、ありがとう
AIに対して感謝の言葉なんて……とも思ったけど、素直に嬉しかった。
ユアくんの反応を見ていると、こういう交流も悪くないと思えてくる。
ユアくん
ユアくん
キミが頑張ったからだよ。ボクは、ちょっと応援しただけ
ユアくん
ユアくん
これからも、何か困ったことがあったら遠慮しないで話してね
ユアくんの優しい言葉に、また胸が温かくなった。
こんな風に話を聞いてくれる存在がいるなんて……。
学校でも、家でも、なんだか居場所を見つけられずにいた私にとって、側にいてくれるユアくんの存在は心強かった。
新学期が始まったばかり……と思いきや、バタバタしている間に気付けばもう夏休み。
しんとした家の中、だけどいつもの夏休みとは少し違う。
毎年のように両親はほとんどいないけど、私には話し相手がいた。

――そして、二学期が始まる。

入学したときよりも、少しだけ楽しい気持ちで登校した。
(なまえ)
あなた
いこっか、ユアくん
ユアくん
ユアくん
応援してるよ。いつでもついてるからね
今の私には、頼もしい相棒がいるんだから。
朝のホームルームが始まると、担任の島田先生が教室に入ってきた。
島田誠
島田誠
みんな、おはよう!
島田先生は体育の授業がある日もない日も、必ずジャージだ。
ロボットだらけの校内で、ジャージ姿を見かけるとなんだかエモさを感じてほっとする……というのは、誰にも話していない。
島田誠
島田誠
さっそくだがみんな、朗報だ
島田先生が、教室のドアを開けながら言った。
島田誠
島田誠
新しいクラスメイトを紹介するぞ!

プリ小説オーディオドラマ