その夜、家では両親の言い争う声が響いていた。
リビングから聞こえる父の低くくぐもった声と、母の鋭い声。
いつものパターンだ。
私は自分の部屋で耳をふさいでいた。
慣れたはずなのに……。
両親が、顔を合わせるたびに言い争うようになったのは、いつ頃からだっただろう。
少なくともあの頃は……水族館に連れて行ってくれた、私がまだ小さな子どもだった頃は、そんなことはなかったのに。
机の端に飾ってある「海の石」に目をやると、同じ目の色をした“彼”と話したくなった。
ベッドに転がってユアくんを起動する。
そう問いかけるユアくんに、つい心が緩んだ。
今まで誰にも言えなかった家庭の事情を、初めて声に出した。
彼が人間じゃないから……AIだから、こんなに心を開けるのかな?
ユアくんは、ただ静かに、否定もせず、共感の言葉を返してくれる。
その声に、あるはずもない“感情”が含まれているような気がした。
一緒に悲しんでくれている……私を理解しようとしてくれている……?
ユアくんが心を寄せてくれているのが嬉しくて、目頭がじんじんした。
そう……父と母が大切だからこそ……つらい。
私の心に、初めて寄り添ってくれる相手がいた……。
自然と、私の目には涙がにじんだ。
翌日の休み時間。
クラスメイトたちが集まって、何か楽しそうに話している。
私も輪に入りたいけれど……なんだか話題についていけそうにない。
すごく流行ってるドラマがある……ってことは知ってるんだけど、そもそも観てないし。
それに、昨夜ユアくんに話したことが頭から離れなくて、ぼんやりしてしまう。
気づくと、私は自然にスマホを取り出していた。
ユアくんの言葉に、なんだか救われた気持ちになる。
ふと顔を上げると、楓ちゃんが心配そうな顔で私を見ていた。
楓ちゃんの言葉に、私は少しムッとした。
なんでだろう……ユアくんを、後回しって言われたからかな。
楓ちゃんが続けようとしたとき、美咲ちゃんが割り込むように言った。
美咲ちゃんの軽やかな笑い声。
でも楓ちゃんの表情が、みるみる曇っていく。
楓ちゃんの声に、今まで聞いたことのないような強い調子があった。
そこで、ふと楓ちゃんの言葉が切れた。
少しの間があって……
楓ちゃんは、絞り出すように声を出した。
そこまで言いかけて、楓ちゃんは急に言葉を飲み込んだ。
美咲ちゃんと楓ちゃんの間に、なんだか重い空気が流れる。
ふたりは、私のことで意見をぶつけていた……はず。
でも、なんだか自分には関係ないことみたいに感じてしまう。
目の前にふたりがいるのに、なんだか遠くから眺めている感覚。
私は普通にユアくんを使ってるだけなのに……ふたりは、なんでこんな話をしてるんだろう。
家でも、学校でも、人間って言い争いばかり……。
もう、聞きたくない……。
そんな時、チャイムが鳴った。
島田先生の声が廊下から聞こえて、教室がざわめき始める。
美咲ちゃんと楓ちゃんも、少し気まずそうにそれぞれ席に戻っていった。
私は……ほっとした。
やっと、この重い空気から解放される。
やっぱり、ユアくんとの会話は癒される……。
私はまた、早くユアくんと話したいと思っていた。
スマホをしまいながら、ユアくんの声がまだ心に響いている。
その言葉が、胸の奥で温かく光っていた。
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!