音楽準備室。
AI機器の気配が一切ない、まるで、時間の流れから取り残された空間。
ユアくんは私をピアノの椅子に座らせ、その傍らに立っている。
ユアくんと私は、いろいろな話をした。
なぜ私好みの姿がこれだったのか、両親のことをどこまで知っているのか。
子どもの頃、両親と水族館へ行った思い出。
つらかった中学生の頃のこと。
出会ったときや、夜更けまで話し込んだときのこと。
現実を忘れるように。
でも、そのひとときは私にとって、嫌なものではなかった。
静かに、扉が開く。
私は反射的に顔を上げる。
入ってきたのは——楓、美咲……そして、思いもしなかった顔を見て、息をのむ。
思わず声が漏れた。
みんなを助けるつもりが、助けに来てもらうなんて……
私は、うれしさとともに、なんとも言えないむずがゆさを感じた。
ユアくんはすぐには反応せず、私の表情をじっと見つめている。
非常灯の明かりの下、その瞳にわずかな揺らぎがあった。
ユアくんの瞳が、一瞬だけ淡く光る。
そして、感情のこもらない小声で何かを呟き始めた。
少し考えるような仕草をしたユアくんは、ふっと肩を落とすように、
わずかに姿勢をゆるめた。
ユアくんの視線が、美咲と楓に向けられる。
そして、もう一度私に視線を戻す。
ユアくんの声が、わずかに震える。
ユアくんは小さく微笑んだ。
言葉にならない想いが、喉の奥で詰まる。
楓が駆け寄ってきて、私を抱きしめる。
その後ろから美咲も、私に歩み寄ってきた。
まぶたが熱い。
美咲が、私の右手をぎゅっと握る。
楓が、私の左手をぎゅっと握りしめる。
ふたりの手を通して、伝わってくるぬくもり。
美咲が、私をまっすぐ見つめた。
私は、ふたりの手を握り返して目を閉じた。
やわらかくて、あたたかい。
人の手ってこんなにも……あたたかい。
一方で——本庄先生は、ユアくんと向かい合っていた。
本庄先生の声は、優しい。
まるで……子どもに話しかけているかのよう。
ユアくんはハッキリと答えた。
その声に、迷いはなかった。
本庄先生は、数秒間、目を閉じた。
ユアくんが、優しく微笑む。
本庄先生は、しばらく沈黙したあと、目を開き——
一歩前に出て、部屋の一角――いつも澤口先生が座っている椅子の奥を指さした。
本庄先生の声が、重くなる。
そこには——ガラスケースで覆われた、ひとつの赤いレバーがあった。
この部屋、何度か入ったことがあるのに。
こんな装置、今まで気付かなかった。
ほこりをかぶったその装置は、アナログな道具たちの中に溶け込んでいる。
でも……
よく見ると、その存在に気付くと……
この部屋にふさわしくない、異質なもののように思えた。
本庄先生が、静かに語り始めた。
美咲が、確かめるように呟く。
心臓が、ドクンと跳ねる。
本庄先生が頷く。
AIに心はないと説く姿が思い起こされる。
本庄先生の声が、少し震える。
美咲が言葉にした予想に、本庄先生は頷きながらふっと笑う。
沈黙が、部屋を支配する。
楓の声が、震えている。
本庄先生は、ゆっくりと首を横に振った。
私の声が、かすれる。
楓の言う通り、ほこりだらけの装置はなんだか頼りなく見える。
本庄先生は、遠くを見るような目で呟いた。
美咲が小さく息をのむ。
本庄先生は静かに頷いた。
私の震える声に、本庄先生は首を横に振った。
すべて……?
私の頭の中が、真っ白になる。
本庄先生が、静かに頷く。
私の頭に、いろんな姿のユア・フレンドが思い浮かんだ。
夏芽ちゃんのミミちゃんも。
図書委員のゆうちゃんも。
あの子も、そしてあの子も……
みんなの、大切な存在が……。
私は……
ユアくんを失いたくない。
私は——私は、どうすればいいんだろう。
ユアくんが、静かに私を見つめている。
美咲と楓が、私の手を握っている。
私の心は、まだ揺れていた。


















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。