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第1話

第1話 青い目のユアくん
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2026/03/05 09:00 更新
桜の花びらが舞い散る中、私はヴェリナール女学園の正門をくぐった。
真新しい制服のブレザーはまだ体に合わずぶかぶか。緊張も手伝って、うまく歩けない。
???
おはようございます
突然、背後から声がかかった。
振り返ると、スーツを着た女性が笑顔で立っている。
(なまえ)
あなた
え、あ、おはよう……ございます
???
あなたは……1―A、あなたの名字あなたの下の名前さんですね
???
担任は体育の島田先生、教室は2階です
名前を言い当てられて驚いていると、彼女は申し訳なさそうな顔になった。
ガイドロボット
私はガイドロボットです。驚かせてしまってごめんなさい
ガイドロボット
今後もよろしくお願いします
どう返していいかわからず、軽く会釈して進む。
お掃除ロボットくん
おはようございまーす!
今度は、丸い清掃ロボットがクルクル回りながら挨拶してくる。
(なまえ)
あなた
え、えっと……おはよう
慌てて挨拶を返すと、ロボットは嬉しそうに光って廊下の奥へと滑るように進んでいった。
(なまえ)
あなた
すごい……
ロボットが普通に……学校にいるんだ。

校舎に入ると、さらに驚きの連続だった。
モニターに猫の顔が表示された白いボディ の運搬ロボットが、車輪で滑るように移動している。
正面のモニターに可愛い顔が表示されていて、私に気づくと
運搬ロボットくん
新入生さんですね。ご入学おめでとうございます
と声をかけてくれた。
(なまえ)
あなた
あ、ありがとう……
なんて返事すればいいのかわからない。
上級生たちを見ると、みんな慣れた様子でロボットたちとやりとりしている。
先輩
今日もお疲れさま、運搬くん!
運搬ロボットくん
おはようございます。今日も元気に過ごしましょう
生徒とロボットの明るい声が廊下に響く。
(なまえ)
あなた
すごすぎて……ついていけないかも……
私は思わずつぶやいた。
国が定めた特区にある、全国でたった一校しかない、選ばれた学園。
ここに通えること自体が奇跡みたいなものだ。

大きな病院に勤める医師の父と、世界を飛び回るピアニストの母。
確かに両親はすごい人たちだ。
だから私は、両親に引っ張られるようにこの特区に移り住んで、
そして……この学園に入学できた。
(なまえ)
あなた
でも……私なんて……
……私自身は全然すごくない。
きっと両親は、私に期待していないんだろうと思う。

だからどんどん仲が悪くなって……

いつからか、三人で食卓を囲むことすらなくなってしまった。
そんな冷たい空気の中で、私は一人で過ごすことに慣れた。
だから、人が多い場所は苦手なのに……そのうえこんな最先端な環境なんて……。
私だけが、場違いな感じがして足が重くなった。

1年A組の教室に入ると、生徒たちが楽しそうにおしゃべりしている。
私はそっと端の席に座って、カバンから教科書を取り出した。
結月楓
結月楓
おはよう! あたし、隣の席なんだ
顔を上げると、ショートカットの女の子が笑顔で立っていた。
(なまえ)
あなた
あ、はい……
結月楓
結月楓
私、結月楓! よろしくね
(なまえ)
あなた
よろしく……お願いします。あなたの名字あなたの下の名前です
結月楓
結月楓
アハハハ。そんなにカタくならないで!
結月楓
結月楓
同じクラスなんだし、敬語はナシだよ!
(なまえ)
あなた
うん。えっと、楓……ちゃん
楓ちゃんの笑顔は、ぱっと周囲を照らすように明るい。
結月楓
結月楓
初日から大変だよね。この学校、ロボットだらけでびっくりしない?
(なまえ)
あなた
うん。正直、戸惑ってる……かも
結月楓
結月楓
あたしたち、ビビってる者同士ってことで! 一緒になんとかやっていこ!
楓ちゃんがそう言ってくれて、ちょっと安心した。

ホームルームの時間。
担任の島田先生が挨拶したあと、しゃんと背筋の伸びた女性の先生が教壇に立った。
本庄静香
本庄静香
皆さん、入学おめでとうございます
本庄静香
本庄静香
私は、教頭の本庄静香です
本庄静香
本庄静香
このヴェリナール女学園は、次世代の教育とAI実証実験の場に選ばれた、全国で唯一の国家認定校です
本庄静香
本庄静香
皆さんは最先端の教育設備という恵まれた環境の中で学んでいきます
本庄教頭の手には、タブレット端末が握られていた。
本庄静香
本庄静香
それではこれから、生徒専用AI『ユア・フレンド』を配付します
本庄静香
本庄静香
スマートフォンを出してください
教室がざわめく。
クラスメイト
生徒専用AI?
クラスメイト
先輩に聞いたことがある! 自分だけのAIなんだって!
クラスメイト
すごーい!
みんな興味津々な様子だけど、私はよくわからなくて困惑した。
ちらっと隣の席を見ると、楓ちゃんも複雑な表情。
……やっぱり。
まだ出会ったばかりだけど、楓ちゃんは私と似たタイプなのかなと思った 。
本庄静香
本庄静香
ユア・フレンドは、一般ユーザーは使用できない、皆さん専用のAIです
本庄静香
本庄静香
普通のアプリとは違いますから、先生が話す手順に従って初期設定してくださいね
配付されたコードからインストールするサイトにアクセスし、個別に用意されたIDとパスワードを入力。
私は操作についていくのがやっとだが、本庄教頭は説明を続けている。
本庄静香
本庄静香
これは皆さんの学習をサポートし、心に寄り添うAIアプリです
本庄静香
本庄静香
時間割管理や宿題のリマインダーはもちろん、悩み事の相談など、皆さんの学園生活を全面的にサポートします
本庄静香
本庄静香
もちろん情報は保護され、一定期間で削除されます
本庄静香
本庄静香
気になる方は、ご両親と一緒に規約を読んでみてくださいね
操作に必死で、説明がまったく頭に入ってこない。
それに……正直、AIに何かしてもらうことにぜんぜん興味が持てなかった。
それでもなんとかアプリをインストールして初回起動をすると
《ユア・フレンドの性別を設定します》
と表示された。
青い目の男の子と、緑の目の女の子。
あとから細かく設定変更できるらしいから、これはデフォルトの姿なんだろう。

あ、この青……。
男の子の目は、海の少しだけ深い場所の水の色のような濃いめの青。
この色に、私は見覚えがあった。

今でこそまったく会話のない両親だけど、私が小さい頃はまだ仲が良かった。
多忙な仕事の合間を縫って、一度だけ私を水族館に連れて行ってくれたことがある。
そのとき、お土産売り場で買ってもらった“海の石”という名のブローチ。
家族が、まだ仲良しだった頃の思い出で……私の宝物。

男の子の目は、海の石とまったく同じ色だった。
(なまえ)
あなた
懐かしいな……
あの頃はまだ、みんなが笑っていたっけ……。
気付いたら、私はその青に惹かれるように、男の子を選択していた。
すると画面には続いて
《ユア・フレンドの詳細設定をします》
髪の毛、服装、アクセサリー、声、性格……とにかく細かく設定する画面が出た。
正直……めんどくさい。
そのとき、画面下に「あなたに合った設定を自動選択」というボタンがあるのに気付いた。
(なまえ)
あなた
これでいいじゃん
私は、そのボタンをポンとタップした。
タップしたあとで、青い目が変更されたらどうしようと一瞬思った。
でも、変わっちゃったらそれはそれで仕方がない……。
《最後に、あなたのユア・フレンドに名前をつけてください》
名前をつけるのなんて、苦手。
というか、なんにも思いつかない。
入力欄にはデフォルトで「ユアくん」と入っている。
これは見本なんだろうけど……私はユアくんのまま、確定ボタンを押した。
次に、画面に現れたのは……
肌が白く、少し癖があっておさまりの悪い金髪の、やさしそうな男の子だった。
まだ、目を閉じている。

少し待っていると、画面内の男の子はゆっくりと目を開いて、こちらを見つめる。
その目の色は、“海の石”と同じ、海の少しだけ深い場所の水の色のような濃いめの青。
ユアくん
ユアくん
おはよう
その声は、優しくて温かかった。
耳ではなくて、心に響いてくるような……不思議な感覚。
ユアくん
ユアくん
キミに会えて……すごく嬉しいよ
この時、私はまだ知らなかった。
この出会いが、私の人生を大きく変えることになるなんて……。

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