捺祢の試合開始の合図と同時に東は千早との距離を詰めて、逆に千早は後退し距離を置く。
東には千早がどう動くのかが全部分かる。
しかも、戦闘能力もずば抜けて高い。
それをアイツはどうやって…
東はそう千早に聞くも回答が見えたのか少し驚いたような表情をする。
驚く東を見た千早は鼻で笑う。
ボオォォォォォッ!!!
慎の目の前の空気が燃え出し、前髪から煙が上がる。
龍はえぇ良いじゃん〜とか言いながら消えていく慎の前髪を治癒?していた。
結局どんな能力にも弱点はあるんだよ、と半笑いで言ってくる龍。
龍のは治癒の限界があること。
慎のは使い過ぎると自分の命を落としかねないこと。
千早のは調整に失敗したら自分も燃えること。
多岐先輩のは攻略された時に対処できないこと。
三輪君のは本人の懐ががら空きになること。
確かにレアの能力にも弱点はある。
………だけど、それは3人を除いての話。
笧三拓のベクトル、力の向きの操作。
成瀬冴羅のピカソ、描いた絵の具現化。
碑賀東のノストラダムス、未来予知。
この3人に関しては弱点というものが存在しない。
千早は守るばかりで攻撃が出来ていなかった。
攻撃しようにも未来が見える東には当たらない。
能力を使わず、守るばかりの戦い。
そう言うと、千早は東の腕を掴んだ。
東には見ていたはずなのに避けなかったのは多分、千早の行動の意味が分からなかったからだろう。
2人の試合にテンションが上がる龍。
だが、その戦っている2人の間には龍のように明るい空気ではなくピリピリとした空気が流れていた。
東は腕を引こうとするが、馬鹿力……じゃなくて、力が強い千早がそれを許さない。
そうなったら、あたしは何をすると思う?とニヤリと笑いながら千早は東に問う。
何を…と言いかけたところで東の表情が怪訝から危険を察知した警戒したものに変わった。
次の瞬間、フィールドに大きな火柱が立った。
熱風が火柱の方から吹いてきて、俺は腕で顔を守る。
熱風が少なくなってきたところで、腕をゆっくりと退かすとそこには座り込む千早と…腕が燃える東。
千早が途切れ途切れに笑いながら、東の腕を指すと炎は消える。
東の右の肘から先は火傷の跡が残っていた。
龍が感心の声を上げていると、少しふらつく千早がこっちに戻って来た。
千早の拳が俺と慎の腹にめり込む。
すると、気が済んだのかご機嫌そうな表情を見せた。
殴られる準備、しとけば良かった…てか、何で俺……
慎の言葉を完全に聞き流している龍が何の涙かは何となく察しがつくが、まぁ謎の涙を拭いながら千早に尋ねる。
そう千早は小さな欠伸を一つしてから少しだけ楽しそうに、そして誇らしそうに笑った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。