試合の開始早々、他のことに興味があったのか、代々木先輩が隣に座る成瀬さんに話しかける。
代々木先輩の質問、その質問に成瀬さんはニヒヒ、と悪戯っ子のように笑う。
でも〜…、と言葉を伸ばしたと思うと成瀬さんはふんわりとした、本心が見えないような微笑みを浮かべた。
そして、次に言った言葉に俺は軽く恐怖を感じた。
『私の能力だと人を殺めるのも簡単だね。』
敬語が消えたのがさらに恐怖心を煽る。
同じように驚いたのか聞いていた代々木先輩の表情も引き攣っているように見えた。
それっぽい言い訳をする成瀬さん。
人を殺すくらいの能力を持っていたとして、本当に殺す気がないのかが全く分からない。
俺と千早の会話を聞いていたのか酒葉さんが席を立つなり、成瀬さん達の元へ行き声をかけた。
成瀬さんは不思議そうに酒葉さんを見たが、何回か話すと2枚の紙を見せていた。
お礼を言って、手を振ると酒葉さんは俺達のところに戻ってくる。
そう言えば、俺って9と何だっけ…
あの辻君に邪魔されてまだ見ていな……………は?
ポケットから引いた紙を取り出すとそこには『14』と綺麗に印刷されていた。
自分の能力を理解していないのは俺と深海先輩。
早く見つけないと、成瀬さんとの対戦が凄い不安で仕方ない…
…いや待て、その前にあの辻君……
この先を考えるだけで俺は疲れてきた。
文句を言ったところでユリに伝わることはないのは分かってはいるけど、本当にやりたくない。
手で口元を押えてクスクスと笑う一霖。
呆れていると、それよりも、と言葉を続ける。
遠くからでも分かる捺袮の冷ややかな目。
能力について考えている間に終わってしまったのかフィールドには俺の試合相手となる辻君が今か今かと試合の始まりを待っていた。
よく分からないまま俺は送り出されて、階段を降りるとフィールドに立った。
俺を見るなり捺袮が大きく溜息を吐いたのは見なかったことにしておく。
溜息を吐いた後、捺袮はいつも通りの考える仕草を見せると辻君を見て口を開いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。