しょうがないなぁ…と笑いながらユリが席から立つとフィールド中央に立つ。
と言い返すも動かないと死ぬ可能性があるのも事実だから俺は少し駆け足でフィールドに向かう。
その点については俺も気になる。
すると、自然に睨んでいたのかユリが俺と目が合うなり…笑った。
胸を張り、自慢げにユリが言う。
ちゃんとした答えにはなっていなかったが、成瀬さんは納得したように見えた。
変なことしたらコイツまじで ─────
図星。
本当にたった今、そう思ったところだった。
こいつ、心読めんのか?
…いや、テレパシーがあるわけじゃないし……
理由を言うと思いきやユリはだって〜、と笑って誤魔化した。
ユリが始め、と腕を振り下ろす。
始まった瞬間、俺はすぐに数歩引いた。
成瀬さんはピカソだってことは分かるけど…
成瀬さん対策は結局見つからなかった。
で、偉人の力に俺の力が使えるのかも不明。
つまり…本当に何も考えずにここに来た。
持っていたスケッチブックを捲り、あるページを俺に向かって見せてきた。
遠目で見にくいが描いてあったのは……
成瀬さんがそう言った瞬間、視界が白くなり、ひんやりとした何かを感じる。
咄嗟にしゃがみ回避すると、後方で氷が盛大に割れる音が鳴り響いた。
嘘だろ、と思い改めて成瀬さんを見るとスケッチブックに持っていた鉛筆でまた何かを描いている。
そう呟いてからたったの約10秒。
成瀬さんの目の前には大砲が現れていた。
いやいやいや、待てって…これは流石に……
消しゴムを手にして席に戻ろうと階段を上がって行く成瀬さんが立ち止まり、俺を見る。
俺は成瀬さんに近付くと、彼女が持っていたスケッチブックを覗き込んだ。
気軽にスケッチブックを貸してくれ、俺はペラペラとページを捲る。
何だこれ、めっちゃくちゃ上手い…
それが第一印象。
さっきの戦いで見た氷山、大砲、そしてあのドラゴンのぬいぐるみ。
スケッチブックに全く同じ物が描かれている。
席からスケッチブックを見ていた俺を見ていた代々木先輩が同情するように苦笑する。
酒葉さんの質問の答えに千早は横目で俺を見ながらそれだけを言った。
確かにこれだけの画力があるなら人を殺すのも守るのも自由自在だな…
スケッチブックを返すと、成瀬さんは新品の消しゴムで描いた氷山と大砲を消す。
すると、フィールドで粉砕した氷山と大きな大砲は一瞬にして消えた。
2人の元に早足で成瀬さんは向かい、俺は少し重い足取りでみんなのところに戻る。
ストレートな言葉が思いっきり俺に刺さる。
言葉が刺さろうとも、試合に負けようとも俺が考えるのはただ一つ。
無事に生きて帰りたい、ただそれだけだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。