席に戻ると千早が何故か揺れていた。
腹にきた千早の強烈なパンチに俺はすぐにその場にしゃがむ。
遠くの方で龍の笑い声が聞こえたような気がしたが、その笑い声はすぐに止まった。
腕を伸ばし欠伸をした千早。
オドオドしている酒葉さんを見るにさっきのは俺を止めようとしてくれてたようだ。
こんな時に眠いからって睡眠?
いや、どう考えても今の俺の殴られる理由には…
慎と一霖の会話を止めてくれた呉さんだが、俺からしたら最後の"可哀想"が1番痛い。
小さく溜息を零しながら振り返ると、次の試合が始まろうとしていた。
もう呆れきって何も言うことがない。
始まるなり、先輩は地面に座り込む。
多岐先輩はどうしようか、と動けない先輩を見ながらゆっくりと考えていた。
ポップコーンが無くなってから静かになったユリが何かを思い出したように口を開く。
四月一日君が小さな声でそう言うが、どうやら俺以外には聞こえなかったようだ。
四月一日君もこのゲームの勝利条件が知らされてないことに気付いてたのか…
俺と先輩と四月一日君は気付いているけど、他の人達はまだ気付いていない。
他校の人は分からないけど…広められて騒ぎになったらあのユリだとすぐに人を殺しそうな気がする。
取り敢えずは広めないのが一番か…
先輩に近寄った多岐先輩は手を前に出すとそのまま首を締め始めた。
身の危険を感じたのか先輩は多岐先輩の手首を掴む。
多岐先輩の手は先輩に能力を使いながら掴まれたから…自分の首を締める形のまま氷漬けにされ先輩が自滅する方向に向いていた。
教えようにも教えたらコーチングに…
結局、先輩は首を締められ気を失ってしまった…
目の前で殺されていくのに何も出来なかった。
もしこれが生き返れないゲームだったら。
………考えるだけでゾッとする。
捺祢がそう宣言するものの氷は消えない。
すると、見ていたユリがさっき投げつけられた氷柱を折って口に入れながら動かない先輩達を見る。
一瞬、ほんの一瞬だけ氷のような冷たい目でユリは俺を見て笑いながらそう言った。
何だ、今の目………
背筋がゾクッとしたところでユリを改めて見るが、ユリはいつも通りニコニコと笑っているだけ。
さっきの目は気のせい、か…?
俺に拒否権はありませんね、と自虐的なことを呟いて先輩達の前に立つと、捺祢は面倒くさそうに構える。
バキッ!!!
捺祢の溜息混じりの拳は多岐先輩の手首に命中。
ヒビは徐々に広がって、もう1発突くとヒビが全体に伝わり一気に氷は砕けた。
危機感のない笑い方で笑う一霖。
近くにいた酒葉さんが私みたいに全敗になったら駄目ですよ!と念を押す。
意味不明な言葉を連発すると、一霖は20の紙を持ってフィールドへと駆けて行った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。