鍵が閉まるなり、酒葉さんが後ろを見てさっきみたいなことがないように確認してくれた。
呉さんが指したのは普段の授業で使う黒板の代わりのホワイトボード。
そこには“問題”と書かれた紙がマグネットでホワイトボードにくっついていた。
慎が問題の紙を見るなり少しだけ難しそうな表情を浮かべる。
四月一日君に返事をすると、慎は問題文の方を俺達に向けた。
その瞬間、は?と苛立ちの声が聞こえる。
《問題》
本能寺千早は小学校の頃、同級生をいじめていた。
眉間にシワを寄せて、言い切った千早。
確かに千早の好き嫌いは分かりやすい。
で、嫌いっぽい人とは本当に接触が一切無かった。
…となると、答えは本人が言う通りの✕か?
指先をスイッチに当てながら俺は考える。
問題は小学校の頃…ってまた疑ってんのか俺は。
一緒に生きようとしている仲間を信じないでどうするんだよ。
俺がスイッチを押すと同時に扉が開く。
技術室は今いる階の廊下の突き当たりで1番近い。
流れで技術室に決定し、俺達はPC室を出る。
少し脚を気にしながら千早が先頭を歩いていく。
深海先輩が“先輩”と呼ばれるのがあまり好んでいないのを思い出したのか呉さんが少し言い直す。
呆れたように背を向けたままそれだけ言われる。
にしても、さっきから俺が最後過ぎる…。
みんなの決断力が速いだけ?それとも…
…俺がここのみんなの意見を疑い過ぎているのか?
ちょっと考えていただけで廊下の端まで着く。
四月一日君の質問に一霖は答えると、技術室の扉の前に立った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。