歩いている途中、ふいに四月一日君がそう聞いた。
千早も周りを気にする中、症状が出たと名乗り出る人は誰もいない。
俺が横目で深海先輩を見るも、本人は気付いておらず、名乗り出る様子もなかった。
深海先輩…
壁に手をつきながら、千早が言う。
確かに歩きにくそうな千早や、吐血に眩暈、吐き気といったかなり深刻な状態になっている四月一日君に比べたら深海先輩はまだまだマシだろう。
……四月一日君みたいに隠していたら別だけど。
少し空気が重くなったまま、俺達は体育倉庫へ。
頬を膨らまして拗ねた呉さんに俺は苦笑を浮かべ、ごめんごめんと言う。
ドヤ顔で言い、慎が倉庫の扉を開ける。
中は相変わらず埃臭い倉庫で物が乱雑している。
問題らしき紙は倉庫の奥の方に糸で吊るされていた。
背中越しに施錠の音を聞きながら、俺は紙に手を伸ばす。
突然の呼び止める声に反応できず、俺は問題用紙を引っ張る。
紙とは思えない重さが手にかかったと思うと、目の前の糸がなくなってその代わりに何かが俺に降ってきた。
みんなが大きく咳き込む。
粉っぽさと臭いからして多分、ラインカーに入れる白い粉。
それが俺に降ったってことは……
振り返ると、白っぽい視界の中に赤が見えた。
四月一日君が口を押さえているが、咳き込む度にその指の間から赤い血がどんどん溢れている。
やばい、と思い俺は問題に目を凝らす。
慎が✕と言ったと同時に俺は✕のスイッチを押す。
俺が押してから、数秒後に鍵は開いた。
体育倉庫から出ると、四月一日君が水道までふらふらと歩いて口を漱いで、呉さんがその介抱をしていた。
一霖と千早に言われ、俺はブレザーを脱ぐ。
紺のブレザーは粉のせいで真っ白になっていた。
いろんな意味で嫌な嫌がらせだ。
ブレザーを叩き、顔を洗おうとYシャツの袖を捲る。
その瞬間、俺は目を疑った。
腕が真っ赤になって、かなり腫れていたのだ。
もうとっくに俺にも毒が回っていた…?
痒い、動きにくい、苦しい、とかの感覚は全くなかった。
だが、どう見てもこの腫れは毒のせいだとしか思えない。
このまま毒が回っていると気付けなかったら?
俺は突然、逝ってしまった可能性もあったってことに…。
もしかしたら全員既に症状は出ていて、気付いていないだけかもしれない。
四月一日君や千早みたいに分かりやすい症状ではなく、見て初めて気付く俺みたいな。
聞こえないように呟き、洗うと袖を直し、ブレザーを着た。
そう言うなり、2人は心の相談室へと向かう。
当たり前だけど切羽詰まっているんだ。
俺もそのうち…
……いや、暗く思うな。前向きに考えろ。
俺達は絶対に生き残る。
腫れた腕を握ると、俺は他のみんなと2人の後を追ったのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。