風を切って吹っ飛ばされる中、私は自分の三半規管を操作して平衡を保っていた。
街を上空から見て地図と照らし合わせていく。
トンっという音と共にどっかの公園に着地。
着地するなり私はイヤホンを片手で押さえながら、もう片方の手でトランシーバーを手に取った。
閃座マンション、コンビニ……多分、これだよね。
ここから近いのは閃座マンションだけど…ビルとかが多いと敵が潜みやすい気もするな…
地図に指を押し当てながらそんなことを考える。
すると、ザザっと聞こえた後に再び笧三君の声が聞こえてきた。
笧三君に忠告をしながらふと顔を上げる。
そして、それと同時に私は自分の目を疑った。
遠くのビルに亀裂が入る。
そして、ビルの上半分が横にズレたと思うとそのまま重力に従って崩れ落ちていった。
これがベクトルの力…めっちゃ強いじゃん……
私に出来ることなんて平衡感覚を奪ったり保つこと。
あとは幻聴を聞えさせることくらい。
笧三君みたいに攻撃なんか到底無理だった。
今回は笧三君に任せて、私は街の作りを地図を頼りに調べた方が良い気がする。
後輩に全任せはやっぱり気にはなるけど、生きる為にはそうしなきゃいけないこともある。
相手を撒くくらいにしかならないし…
私に出来ることをやろう。
気合を入れる声。
私はトランシーバーをしまって立ち上がると公園から出て、走り始めた。
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辻君が歓喜の声を上げたのは笧三君がビルを半壊にした時だった。
確かに。
今のビルだって慎の試合だって動かしたのは物質。
あくまで操作出来るのは"力の向き"。
龍が椅子の背もたれに腕を置いて後ろを見る。
腕を組んで静かに対戦映像を見ていた捺祢が少し間を置いて、スクリーンから龍に視線を移す。
代々木先輩を応援する成瀬さん。
スクリーンに映る東と笧三君。
3人に視線を移してからまた俺達を見る。
あまり話さない捺祢がスラスラと言葉を並べる。
それだけを言うと、捺祢は再び映像を見始めた。
まさにその通り過ぎて俺達は何も言えず、モヤモヤとした気分を誤魔化すようにスクリーンを見た。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。