10分経っても深海さんは来なかった。
多分だけど、四月一日達に足止めされている。
あたしも碑賀もボロボロで焦げて、あと少しで限界を迎えるというのは感じ取れていた。
今の状態ならどっちが倒れてもおかしくない。
碑賀が倒れるのを待って深海さんのところに向かうべきなのか、それともここで来るのを待つべきなのか…
いっそ勝つのを諦めて深海さんも含めた全てを巻き込んで燃やすってのも一つの手だ。
引き分けと負けなら死ぬリスクは減るはず。
でも、それは少し頑張ってこっちに来ようとしてくれている深海さんに申し訳ない。
と言って、他にこの窮地から抜け出せる方法は?
答えは“無し”。
もうここから動くのは肉体的に難しい。
だから、助かるには深海さんと合流かこの場で決着をつける攻撃を仕掛ける他にない。
……何でこんなに人のことを考えているんだろう。
ふと思ったことがイラつきが段々と増していたあたしを冷静にさせた。
人と協力する意味?あまり仲良くない、ましてや学校で話したことのない人に命を預ける?
勝つための努力、我が身を滅ぼした攻撃。
あたしらしくない。
半笑いを浮かべて、あたしは構えていた腕を下ろす。
言葉の意図を読めないのか碑賀は警戒しながらも怪訝そうな顔であたしを見ている。
気付かない方が良かったかも。
勝利を収める為に戦ってるんじゃなかった。
別にこれで負けてもいい、なんて少し思っている。
それは何故か。
“あたしが生き延びるならそれで良い”から。
そこまで言うと、碑賀の動きがピシリと固まる。
予知した数秒後の未来は赤か黒。
業火に包まれているか、既に死んで無…だ。
本能寺さんの元へ向かっている道中、代々木君と四月一日君に阻まれ、攻撃を避けながら私は少しずつ移動を続けていた。
指人形に髪を引っ張られて、地味な攻撃なのに少し痛いのが声にしたように鬱陶しい。
凍らして髪から落とすも次々とぬいぐるみは現れ、中には四月一日君の能力で私の目には見えない透明のぬいぐるみまで現れる。
地面を伝わせて彼らを凍らせたとしても、成瀬さんが描いたドラゴンのぬいぐるみをどうにかしないと溶かされてしまう…
先に狙うはドラゴンのぬいぐるみですが、他のぬいぐるみに邪魔されて難しいですね……
水を作り出すことは可能、しかし私の能力は空中にある物は凍らせることが出来ない。
早く対処法を思いつかねば ──────
四月一日君が指したのは私の目的地である七佐ビルが建てられている方向。
釣られて振り返ると、ビルの屋上に思わず目を瞑りそうになるほど明るい光が見えた。
代々木君が叫び声に近い大声を出して四月一日君の腕を掴むと同時に屋上の眩い光は赤い炎に変わり、物凄いスピードで街を飲み込んで焼き尽くす。
私の能力では消せないと悟り逃げることを考えた時にはもう遅く、私は ─────
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。