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第1話

才能は開花させるもの。センスは磨くもの。
33,214
2020/06/14 07:04
及川𝓈𝒾𝒹𝑒.°



及川「飛雄の天才っぽいところは、技術とかより多分馬鹿なところだよね。普通なら躊躇うところを、迷わず突き進む。それが良い方向でも悪い方向でも」




夢中になったら周りが見えず、誰もついて来ていないことにも気がつかない。



腹立たしいよね。



そんな飛雄は、誰よりもあなたに見てもらって、愛されて、守られて。


俺と飛雄の何が違う?


あなたが飛雄にずっとついて離れないのは、単に飛雄に同情しているからではない。




あなたもまた、同じ部類なんだ。






______でも。



飛雄達の先をいく馬鹿が現れてしまった。



チビちゃん、ほんと厄介だね……。






あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°



あなた「すごいっ、カゲくんナイスだよ!!」




あんな咄嗟にトス合わせたりできる?普通。


……やっぱりすごいや。



「ナイスワンタッチ!」

「繋げ繋げ!!」

「乱れてる!」

「レフト注意!!」

「下がれ!!」

「ナイスレシーブ!!」

「もっかいもっかい!!」

「カバー!」

「レフトー!!」




一進一退の攻防の末、青城が先に20点台に乗った。



澤村「慌てなくていい!まだ一点だ!」



澤村先輩の頼もしい声かけに、皆の表情が緩む。



こちらも取り返して、同点。


日向のサーブでまた、山口くんが投入された。


2セット目に入った時は、会場のどこからともなく「ビビリピンサ」と称されていたけど。


今は違う。


山口くんを舐めてかかるような人はいないし、青城の皆が、真に警戒している。




あなた「山口くん!サイサー1本!!」

谷地「山口くん!さっきの頼むよー!!」


コクリと頷いた山口くんに、月島くんがボールを渡す。



月島「山口。ナイサー1本っ」


山口「_________うん!!」




やっぱり、後で存分に褒めてあげよう。



ピッ



山口くんのサーブは空気抵抗を受けながら、健太郎くんの方へ伸びていく。



寸前で伸びたボールは賢太郎くんの指をかすめ、後方へ。



谷地「やったぁぁぁぁ!」


冴子「よっしゃぁぁぁ!」



あなた「〜っ!お兄ちゃん!!」



コートに落ちたかのように思えたボールは、飛び込んできたお兄ちゃんがなんとか上げた。


こちらのチャンスボールになり、シンクロ攻撃を仕掛ける。



旭先輩のスパイクを、またもやレシーブしたのはお兄ちゃんだった。



岩泉「おっしゃぁぁぁ!!」


あなた「〜っ、ナイスレシーブ!!」



自分の声が震えている事が分かった。


手を叩いて、身を乗り出して観戦する。



徹くんが上げたトスを、花巻くんがフェイントで点を決めた。





『ねぇお母さん、おにーちゃんどうしてふててるの?』


『うーん……お母さんにもちょっと分からないの』


『おにーちゃん、どうしたの?』


『……バレーのコーチに、「スパイクばっかりやってもボール繋げないと意味ないだろ」ってレシーブばっかりさせられるんだ。絶対スパイクの方が楽しいのにっ!』











『お兄ちゃん、スパイクしかやらないんじゃなかったの?』


『んー?昔の話だろっ。相手の完璧な攻撃を拾うレシーブの快感って、すげぇんだぜ?それに、拾えば拾うだけ打てるしな!』


『そっかぁ……。派手な攻撃の方がかっこいいのに』


『お前もいつか分かるっ』






ねぇお兄ちゃん。



私、今なら分かるよ。



勿論スパイクもカッコいいけど、今のお兄ちゃんは……私が見て来た中で1番、輝いてるよ。




1番、カッコいいよ。











セットも終盤、徹くんのサーブ。



ドゴォォォッ!!!!



今日1番の派手な音が、鳴り響いた。



ボールは烏野コートにめり込んで、会場を沸かせる。



嶋田「まじっかよ……」


あなた「…………、」




青城のマッチポイント。



すかさずタイムアウトをとって、ベンチに集まった。



菅原「触りゃなんとかなるっ!負けねぇよ俺たちは」


東峰&澤村「おう」





花巻「思いっきりいけよ〜っ!」


及川「______当然っ」






ゆっくりと、深呼吸をして。



震える息が、荒くなる。




仁花「あなたちゃん……?大丈夫?」


あなた「え?うん……?」



言われて、身体も震えている事が分かった。


ここまできて、こんな終盤になってまで……。




私は、どっちにも勝って欲しいって心底思ってる。




あなた「烏野〜っ!!1本集中!!!」


「「「「「おーーーっす!!」」」」」




あなた「徹くんっ、ナイサー1本!!」


及川「おうっ!」






ピッ





放たれたボールは澤村先輩がレシーブ。


カゲくんのトスから、旭先輩が決めた。



「「「「しゃぁぁぁぁぁ」」」」



嶋田「でもまだ、青城のマッチポイント……!」


滝ノ上「この1点の壁は高いっ」



西谷先輩が下がって、菅原先輩が投入された。



「うぇい!」

「うぇーい!」




1人1人とハイタッチを交わし、体制を整える。



ピッ



菅原先輩のサーブをお兄ちゃんが取り、賢太郎くんのスパイク。



カゲくん1人のブロックに、日向が加わってワンハンドブロック。


カゲくんに勢いよくぶつかりはしたけど、これでデュースだ……!



次のサーブも、ギリギリの前に落としお兄ちゃんを牽制。


花巻くんのスパイクが白帯に擦れて、前に落ちていく。



菅原先輩がレシーブして、高く上がった。



これで菅原先輩がトスを上げることはない。



菅原「いけぇぇ!!」



他皆が飛び出し、カゲくんがボールに手を伸ばす。




日向「持ってこぉぉぉぉい!!」



あなた「_________っ!?」




カゲくんは嘲笑うかのようにボールを操り、ツーアタックを見事に決めた。



飛び込んだ徹くんの指先のほんの数センチ先で、ボールが落ちた。




青城がタイムアウトをとり、集まる。



あなた「…………??」


ふと送った視線は、徹くんのそれと交わって。



及川「、……、……ちゃんと、見ててね



そう、口が動いた。




見てるよ。



今も、これからも、ずっと。



私は、ずっとそうしてきたんだから。







タイムアウト明け、菅原先輩が前に落としたサーブをお兄ちゃんが上げて、賢太郎くんのスパイク。


田中先輩が受けて、上がったところでセッターがスイッチ。



旭先輩のスパイクはブラックの間を抜けて、花巻くんが拾う。



滝ノ上「がぁぁぁっ、拾いやがったぁ!!」


嶋田「でも_________乱れた!!」



あなた「〜っ、徹くん!!」



「「チャンスボーーール!!」」



サイドに大きく乱れたボールを追いながら、徹くんはスッと確かに、お兄ちゃんを指さした。




あなた「〜っ!!」



まさか……!



バシュッ


コート外からの、超ロングセットアップ。


入ってきたお兄ちゃんが合わせて飛ぶ。




並べられてあった椅子に背中から倒れ込んだ徹くんと、お兄ちゃんを交互に見て声を張った。




あなた「お兄ちゃぁぁぁん!!!」




バゴォッッ!!



ドンピシャの攻撃は、澤村先輩の腕を弾いて後方へ。



溝口「しゃぁぁぁっ!!……っ!?」



ドムッッ




信じられないほどの反射で飛び込んだ田中先輩が上げて、旭先輩がボールを追う。



あなた「打てるっ!!!!」



照島さんのように、東峰先輩はエンドラインの方で踏み切って飛び上がり、ボールを打ち返した。



リベロの腕を弾いてネットにかかる。



落ちていくボールを、賢太郎くんが驚異的な反射で上げる。



澤村「叩けっ影山ぁぁぁ!!」



金田一のブロックに跳ね返されたボールは菅原先輩の額に当たり、上に上がった。




すぐにカゲくんがセットアップ。


日向が飛び込む。



お兄ちゃん、金田一、賢太郎くんの3枚ブロックが目の前を覆って、一瞬インハイ予選の最後が脳裏をよぎった。




いいやでも_________。




あなた「日向ぁぁぁっ!!!」




敗北を、越えるために。


私たちは東京に行って、それぞれの武器を磨いた。


日向も、カゲくんも、あの時とは違うから。





ドゴゴッ!!




金田一の指先を弾いたボールが飛んでいき、巻き構えていた徹くんの腕に当たって後方へと伸びる。








そして後ろには、誰も_______居なかった。




トンットントンッ……




…………ピッ……ピーーーーーッ‼︎




一瞬の静寂の後、烏野の雄叫びが会場内に響き渡る。



あなた「〜、……っ、」



喜びを分かち合う烏野の皆を見て、“勝ったんだ”って、嬉しくなって。





雪崩れ落ちた青城の皆を見て、“負けたんだ”って、苦しくなった。





26対24。




ファイナルセットを獲ったのは、烏野だった。

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