前の話
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及川𝓈𝒾𝒹𝑒.°
及川「飛雄の天才っぽいところは、技術とかより多分馬鹿なところだよね。普通なら躊躇うところを、迷わず突き進む。それが良い方向でも悪い方向でも」
夢中になったら周りが見えず、誰もついて来ていないことにも気がつかない。
腹立たしいよね。
そんな飛雄は、誰よりもあなたに見てもらって、愛されて、守られて。
俺と飛雄の何が違う?
あなたが飛雄にずっとついて離れないのは、単に飛雄に同情しているからではない。
あなたもまた、同じ部類なんだ。
______でも。
飛雄達の先をいく馬鹿が現れてしまった。
チビちゃん、ほんと厄介だね……。
あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°
あなた「すごいっ、カゲくんナイスだよ!!」
あんな咄嗟にトス合わせたりできる?普通。
……やっぱりすごいや。
「ナイスワンタッチ!」
「繋げ繋げ!!」
「乱れてる!」
「レフト注意!!」
「下がれ!!」
「ナイスレシーブ!!」
「もっかいもっかい!!」
「カバー!」
「レフトー!!」
一進一退の攻防の末、青城が先に20点台に乗った。
澤村「慌てなくていい!まだ一点だ!」
澤村先輩の頼もしい声かけに、皆の表情が緩む。
こちらも取り返して、同点。
日向のサーブでまた、山口くんが投入された。
2セット目に入った時は、会場のどこからともなく「ビビリピンサ」と称されていたけど。
今は違う。
山口くんを舐めてかかるような人はいないし、青城の皆が、真に警戒している。
あなた「山口くん!サイサー1本!!」
谷地「山口くん!さっきの頼むよー!!」
コクリと頷いた山口くんに、月島くんがボールを渡す。
月島「山口。ナイサー1本っ」
山口「_________うん!!」
やっぱり、後で存分に褒めてあげよう。
ピッ
山口くんのサーブは空気抵抗を受けながら、健太郎くんの方へ伸びていく。
寸前で伸びたボールは賢太郎くんの指をかすめ、後方へ。
谷地「やったぁぁぁぁ!」
冴子「よっしゃぁぁぁ!」
あなた「〜っ!お兄ちゃん!!」
コートに落ちたかのように思えたボールは、飛び込んできたお兄ちゃんがなんとか上げた。
こちらのチャンスボールになり、シンクロ攻撃を仕掛ける。
旭先輩のスパイクを、またもやレシーブしたのはお兄ちゃんだった。
岩泉「おっしゃぁぁぁ!!」
あなた「〜っ、ナイスレシーブ!!」
自分の声が震えている事が分かった。
手を叩いて、身を乗り出して観戦する。
徹くんが上げたトスを、花巻くんがフェイントで点を決めた。
『ねぇお母さん、おにーちゃんどうしてふててるの?』
『うーん……お母さんにもちょっと分からないの』
『おにーちゃん、どうしたの?』
『……バレーのコーチに、「スパイクばっかりやってもボール繋げないと意味ないだろ」ってレシーブばっかりさせられるんだ。絶対スパイクの方が楽しいのにっ!』
・
・
『お兄ちゃん、スパイクしかやらないんじゃなかったの?』
『んー?昔の話だろっ。相手の完璧な攻撃を拾うレシーブの快感って、すげぇんだぜ?それに、拾えば拾うだけ打てるしな!』
『そっかぁ……。派手な攻撃の方がかっこいいのに』
『お前もいつか分かるっ』
ねぇお兄ちゃん。
私、今なら分かるよ。
勿論スパイクもカッコいいけど、今のお兄ちゃんは……私が見て来た中で1番、輝いてるよ。
1番、カッコいいよ。
セットも終盤、徹くんのサーブ。
ドゴォォォッ!!!!
今日1番の派手な音が、鳴り響いた。
ボールは烏野コートにめり込んで、会場を沸かせる。
嶋田「まじっかよ……」
あなた「…………、」
青城のマッチポイント。
すかさずタイムアウトをとって、ベンチに集まった。
菅原「触りゃなんとかなるっ!負けねぇよ俺たちは」
東峰&澤村「おう」
花巻「思いっきりいけよ〜っ!」
及川「______当然っ」
ゆっくりと、深呼吸をして。
震える息が、荒くなる。
仁花「あなたちゃん……?大丈夫?」
あなた「え?うん……?」
言われて、身体も震えている事が分かった。
ここまできて、こんな終盤になってまで……。
私は、どっちにも勝って欲しいって心底思ってる。
あなた「烏野〜っ!!1本集中!!!」
「「「「「おーーーっす!!」」」」」
あなた「徹くんっ、ナイサー1本!!」
及川「おうっ!」
ピッ
放たれたボールは澤村先輩がレシーブ。
カゲくんのトスから、旭先輩が決めた。
「「「「しゃぁぁぁぁぁ」」」」
嶋田「でもまだ、青城のマッチポイント……!」
滝ノ上「この1点の壁は高いっ」
西谷先輩が下がって、菅原先輩が投入された。
「うぇい!」
「うぇーい!」
1人1人とハイタッチを交わし、体制を整える。
ピッ
菅原先輩のサーブをお兄ちゃんが取り、賢太郎くんのスパイク。
カゲくん1人のブロックに、日向が加わってワンハンドブロック。
カゲくんに勢いよくぶつかりはしたけど、これでデュースだ……!
次のサーブも、ギリギリの前に落としお兄ちゃんを牽制。
花巻くんのスパイクが白帯に擦れて、前に落ちていく。
菅原先輩がレシーブして、高く上がった。
これで菅原先輩がトスを上げることはない。
菅原「いけぇぇ!!」
他皆が飛び出し、カゲくんがボールに手を伸ばす。
日向「持ってこぉぉぉぉい!!」
あなた「_________っ!?」
カゲくんは嘲笑うかのようにボールを操り、ツーアタックを見事に決めた。
飛び込んだ徹くんの指先のほんの数センチ先で、ボールが落ちた。
青城がタイムアウトをとり、集まる。
あなた「…………??」
ふと送った視線は、徹くんのそれと交わって。
及川「、……、……」
そう、口が動いた。
見てるよ。
今も、これからも、ずっと。
私は、ずっとそうしてきたんだから。
タイムアウト明け、菅原先輩が前に落としたサーブをお兄ちゃんが上げて、賢太郎くんのスパイク。
田中先輩が受けて、上がったところでセッターがスイッチ。
旭先輩のスパイクはブラックの間を抜けて、花巻くんが拾う。
滝ノ上「がぁぁぁっ、拾いやがったぁ!!」
嶋田「でも_________乱れた!!」
あなた「〜っ、徹くん!!」
「「チャンスボーーール!!」」
サイドに大きく乱れたボールを追いながら、徹くんはスッと確かに、お兄ちゃんを指さした。
あなた「〜っ!!」
まさか……!
バシュッ
コート外からの、超ロングセットアップ。
入ってきたお兄ちゃんが合わせて飛ぶ。
並べられてあった椅子に背中から倒れ込んだ徹くんと、お兄ちゃんを交互に見て声を張った。
あなた「お兄ちゃぁぁぁん!!!」
バゴォッッ!!
ドンピシャの攻撃は、澤村先輩の腕を弾いて後方へ。
溝口「しゃぁぁぁっ!!……っ!?」
ドムッッ
信じられないほどの反射で飛び込んだ田中先輩が上げて、旭先輩がボールを追う。
あなた「打てるっ!!!!」
照島さんのように、東峰先輩はエンドラインの方で踏み切って飛び上がり、ボールを打ち返した。
リベロの腕を弾いてネットにかかる。
落ちていくボールを、賢太郎くんが驚異的な反射で上げる。
澤村「叩けっ影山ぁぁぁ!!」
金田一のブロックに跳ね返されたボールは菅原先輩の額に当たり、上に上がった。
すぐにカゲくんがセットアップ。
日向が飛び込む。
お兄ちゃん、金田一、賢太郎くんの3枚ブロックが目の前を覆って、一瞬インハイ予選の最後が脳裏をよぎった。
いいやでも_________。
あなた「日向ぁぁぁっ!!!」
敗北を、越えるために。
私たちは東京に行って、それぞれの武器を磨いた。
日向も、カゲくんも、あの時とは違うから。
ドゴゴッ!!
金田一の指先を弾いたボールが飛んでいき、巻き構えていた徹くんの腕に当たって後方へと伸びる。
そして後ろには、誰も_______居なかった。
トンットントンッ……
…………ピッ……ピーーーーーッ‼︎
一瞬の静寂の後、烏野の雄叫びが会場内に響き渡る。
あなた「〜、……っ、」
喜びを分かち合う烏野の皆を見て、“勝ったんだ”って、嬉しくなって。
雪崩れ落ちた青城の皆を見て、“負けたんだ”って、苦しくなった。
26対24。
ファイナルセットを獲ったのは、烏野だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。