あなた「ふおおお、寒い……」
朝練終わり。
身をブルっと震わせながら、教室棟へと歩く。
影山「マフラーまだ買ってないのか?」
あなた「中々時間なくて……」
先週、お気に入りのマフラーを木に引っ掛けてお釈迦にしてしまってから、新しいのを買えていない。
早く買わないと凍え死ぬ……!!
フワッ、
あなた「___、!」
影山「俺体あったまってるから」
カゲくんのネックウォーマーをかぶせてくれて、幾分か凍えが治った。
あなた「ありがとう……」
影山「……ん」
私が熱を出して倒れた日___、あの日から、カゲくんと私の関係は少しだけ歪になった。
ただの友達______だったはずなのに。
カゲくんが私に向ける気持ちと、私がそれを受ける気持ちが、多分噛み合っていなくて。
それでもお互い、今の関係は崩したくないからか、変わらず接している。
あなた「______あ、日向いるっ。ちょっと放課後のやつ伝えてくるね!」
影山「おぅ」
清水先輩からの言伝を伝えるために小走りで駆け寄ると丁度友達と歩いているところで、バレー部の全国進出の垂幕を見上げていた。
あなた「日向〜っ」
日向「?あ、あなたっ」
「!!!?(ぃっ、岩泉さんだ……!//)」
あなた「今日、パンフ用の測定やるらしいんだ。だから早めに来てって清水先輩が」
日向「分かった!サンキューな______って、そのネックウォーマー……」
日向らしくもなく敏感に気がついたなと感心して、「カゲくんから借りたんだ〜」と笑って返すと「ふ、ふぅん?」と何故か胸を張った。
影山「おい。最高到達点で勝負だ」
追いついてきたカゲくんが、いつも通り日向に勝負を仕掛ける。
日向も意気揚々と返すものだから、その友達に若干引かれている。
______もうすぐ、春高だ。
日向「俺は猪を倒した男だ!」
影山「俺は熊に勝った男だぞ!!」
あなた「ほらもう!いつまで言い合ってんの!」
バシイッ!
2人の頭を軽く叩いて、暖房を求めて校舎に入った。
・
あなた「あっ、月島くん山口くん。今日パンフ用の測定やるから、放課後できるだけ早く来てって清水先輩が」
山口「あぁ、そっか。忘れてた。ありがとう〜」
月島「はーい」
教室に着いてから2人に声をかけて、荷物を下ろした。
あなた「___ぁ、忘れてた……」
カゲくんのネックウォーマーを着けたままだった。
もう時間もないし、放課後でいいや。
山口「身長伸びてるかなぁ〜。180いってるといいなぁ」
あなた「150センチ台の私の前で言わないで……」
月島「今日あなたも測ってみたら?日向や西谷さんの慰めになるんじゃない?」
クスクス笑いながらからかわれて、「もー!」と怒ると鼻を摘まれた。
あなた「だぁから摘むなって言ってるでしょうが!」
月島くんは変わらない。
相変わらず私のことはからかってくるし、悪態はつくし。
それが一種の優しさから来ているものなのだとなんとなく分かるけど、それでもちょっとムカついたり。
・
まず最初の身長測定。
終わった人から廊下に出て残りのメンバーを待っている。
あなた「あ、田中先輩丁度1センチ伸びてますねっ」
田中「3センチくらい伸びて欲しかったぜ……」
東峰「え、あなたちゃん前の身長覚えてるの?」
あなた「?はい。先輩は1.7センチ伸びましたね!」
菅原「ハイスペックあなた……もう驚かない」
わらわら盛り上がりつつ、選手が来る前に試しに測ってみたのを思い返した。
……1ミリたりとも変化していないなんて。
ガララッ、
田中「おぉ……ノヤっさん!!どうだった!?」
深刻な顔をして出てきた西谷先輩。
田中先輩に聞かれると、「俺は……」と紙を掲げた。
西谷「ついに160センチ台だぁぁぁぁぁ!!」
田中「ああおおおおマジかああああああ!」
見てみると、160.5センチ。
1.2センチ伸びている。
あなた「やっぱり男の子はそんなもんなんですか……」
西谷「?あなたは伸びてなかったのか?」
あなた「はは……微動だにしてなかったです」
切なくなってきた……。
その後、日向、山口くん、カゲくん、月島くん達1年組も測定を終えて、最高到達点を測るためにバスケ部の体育館に向かった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!