第336話

‥誰かに惚れるまで‥
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2020/05/19 04:31
あなた𝓈𝒾𝒹𝑒.°



朝御飯を食べ終えて、荷物を持って家を出た。

昼過ぎには駅に向かいたいから、荷物を部室に置かしてもらって直で帰ろうという計画。




侑「おーす」


三叉路で侑と治と遭遇して、4人で学校に向かった。



侑は、ずっと「何もなかったよな?な?」と心配そうな顔をしてきたけど何の事か分からずに、とりあえず「うん」とだけ答えると心底安心したようだった。



治「あなた、今日一緒回らん?」



治に顔を覗き込まれて、小さく謝った。



あなた「今日……北さんと話があるから、」



そう言うと残念そうな顔をして、「ほなら終わったら回ろな」と頭に手を置いた。






2日目は主に舞台発表。


のど自慢とか有志ダンス・バンドとか、ミスコンとか。



屋台も勿論賑わっていて、私と北さんはそっちを回った。


侑はミスコン、治と倫くんは屋台。




一通り歩き終えてから、昨日のベンチへ腰かける。




北「……ほな、聞いてもええ?」


あなた「……」



コクりと頷いて、小さく確かに息を吸った。



北さんに好きだと言われて、もう物凄く心が揺らいだ。


北さんみたいに優しい人と一緒にいれたら、どれだけ幸せだろうと思った。



だけど……。



あなた「……まだ、私、失恋した相手の事が……忘れられなくて」


北「それ忘れるために、“新しい恋”なんやねん?」




“新しい恋”


そうなんだ。




そうなんだけど……。



あなた「……西谷先輩を忘れるために、北さんを利用するみたいな……そんなこと、したくない、です」



真っ直ぐに想いを伝えてくれて、でもちょっと揺らいだ、くらいの軽い気持ちで応えてはいけない気がした。


工くんのように……。




あなた「だから……ごめん、なさい」



昨日倫くんから、“失恋から立ち直る方法”2つ目を聞いて……。


改めて、北さんをそんな風に利用したくないと思った。


でもそんなのは建前で、本当は……。



北「……はっきり、言ってくれん?」


あなた「っ、」



分かってた。


こんな風に体裁を繕ってるだけでは、なんの解決にもならないって。


本当に私の事を想ってくれてる相手に、こうやって“利用したくない”なんて偽善で突き放したところで、その人のためにはならないんだって。


だけど北さんを、傷つけたくない。



大切だから、だから____。




いや、だからこそ・・・・・……。





あなた「~っ、忘れる、ために……北さんと付き合ってもっ、西谷先輩以上に、好きにはなれなi___」


北「__すまん」


あなた「っ、……」



声が震えて、でもちゃんと、突き放さないといけないからって。


絶対に泣いちゃダメだって、全身に込めていた力が……。



フワッと頭に手を置かれて、一気に和らいだ。




北「言いたないよな……こんな“嫌な言葉”」


あなた「~っ、北さ____」


北「すまん…………もう、ええから……」



どうして……。


どうしてそんな、分かっちゃうの……?



北「あなたならきっと、俺の事考えてあえて酷い言い方する思うた……せやからそれ聞いたら、俺も諦めつく思うたんやけど……」



私の震える肩をさすって、これまでにないくらい優しい声で。




北「それ以上に、そない辛い思いして断ってほしないわ……。あなたの笑顔が好きやねんから」


あなた「~っ、っ……~……」




言葉が出なかった。


どうして私、こんなにいい人を……こんな、哀しい顔にさせてしまったんだろうか。




北「せやから、ほら……。泣かいんといてや?」



ひたすらに、優しく。


撫でられる箇所の感触が……。


凶器なほどに優しくて……。



泣いちゃダメだとわかってるのに。




溢れて、止まらなかった。













それから、大分経ってから。



もう何が何だか分からなくなってきた私は、北さんの一言でやっと顔を上げた。




北「おおきにな……」


あなた「……なん、で」



どうして私なんかに……こんな、傷つけてばかりの私なんかに……感謝の言葉なんて言うの……?




北「水族館行った日、覚えとるか?」



あなた「水族館……」



そうだ、5人で行った、あの日……ちゃんと北さんと、話した日。




北「あの時なぁ……あなたが覚えとるかは分からんけど……俺の事、“私も見てます”って、言うてくれたやろ?」



あなた「……はい」



試合の話になって、北さんの頑張りを見てるって、話した時だ。




北「俺な、自分で思っとる以上に、あの言葉に救われたんやと思う。神さんが……俺にとっての神さんが、ここにも居ったんや……って」



頭を撫でながら、儚く笑う。



北「……好きやで。あなた」


あなた「~っ//……でも」


北「ええんよ。もう……」


あなた「……?」


北「突き放さんでええ。……いうか、なんぼ酷い言葉言われても簡単に離れんで?」




目を細めて、やっぱり儚く笑って……。




北「せやから、もうええねん。この先あなたが誰かに惚れたり、付きおうたりしても……いつか奪い返したるさかい」



あなた「……、」



北「自己満足でええんよ。応えて貰えんでも、好きやねんから。…………せやなぁ、俺がまた誰かに惚れるまで・・・・・・・・・・・・、好きでおらしてや?」



あなた「……」




私の答えを聞かないまま、ポンポンと2回頭の上で手を動かして立ち上がった。




そして、出会った時のように私には勿体ないくらい優しく微笑んで。





北「ほなら行こか。、____てんとう虫ちゃん・・・・・・・・

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