あなた𝓈𝒾𝒹𝑒.°
朝御飯を食べ終えて、荷物を持って家を出た。
昼過ぎには駅に向かいたいから、荷物を部室に置かしてもらって直で帰ろうという計画。
侑「おーす」
三叉路で侑と治と遭遇して、4人で学校に向かった。
侑は、ずっと「何もなかったよな?な?」と心配そうな顔をしてきたけど何の事か分からずに、とりあえず「うん」とだけ答えると心底安心したようだった。
治「あなた、今日一緒回らん?」
治に顔を覗き込まれて、小さく謝った。
あなた「今日……北さんと話があるから、」
そう言うと残念そうな顔をして、「ほなら終わったら回ろな」と頭に手を置いた。
2日目は主に舞台発表。
のど自慢とか有志ダンス・バンドとか、ミスコンとか。
屋台も勿論賑わっていて、私と北さんはそっちを回った。
侑はミスコン、治と倫くんは屋台。
一通り歩き終えてから、昨日のベンチへ腰かける。
北「……ほな、聞いてもええ?」
あなた「……」
コクりと頷いて、小さく確かに息を吸った。
北さんに好きだと言われて、もう物凄く心が揺らいだ。
北さんみたいに優しい人と一緒にいれたら、どれだけ幸せだろうと思った。
だけど……。
あなた「……まだ、私、失恋した相手の事が……忘れられなくて」
北「それ忘れるために、“新しい恋”なんやねん?」
“新しい恋”
そうなんだ。
そうなんだけど……。
あなた「……西谷先輩を忘れるために、北さんを利用するみたいな……そんなこと、したくない、です」
真っ直ぐに想いを伝えてくれて、でもちょっと揺らいだ、くらいの軽い気持ちで応えてはいけない気がした。
工くんのように……。
あなた「だから……ごめん、なさい」
昨日倫くんから、“失恋から立ち直る方法”2つ目を聞いて……。
改めて、北さんをそんな風に利用したくないと思った。
でもそんなのは建前で、本当は……。
北「……はっきり、言ってくれん?」
あなた「っ、」
分かってた。
こんな風に体裁を繕ってるだけでは、なんの解決にもならないって。
本当に私の事を想ってくれてる相手に、こうやって“利用したくない”なんて偽善で突き放したところで、その人のためにはならないんだって。
だけど北さんを、傷つけたくない。
大切だから、だから____。
いや、だからこそ……。
あなた「~っ、忘れる、ために……北さんと付き合ってもっ、西谷先輩以上に、好きにはなれなi___」
北「__すまん」
あなた「っ、……」
声が震えて、でもちゃんと、突き放さないといけないからって。
絶対に泣いちゃダメだって、全身に込めていた力が……。
フワッと頭に手を置かれて、一気に和らいだ。
北「言いたないよな……こんな“嫌な言葉”」
あなた「~っ、北さ____」
北「すまん…………もう、ええから……」
どうして……。
どうしてそんな、分かっちゃうの……?
北「あなたならきっと、俺の事考えてあえて酷い言い方する思うた……せやからそれ聞いたら、俺も諦めつく思うたんやけど……」
私の震える肩をさすって、これまでにないくらい優しい声で。
北「それ以上に、そない辛い思いして断ってほしないわ……。あなたの笑顔が好きやねんから」
あなた「~っ、っ……~……」
言葉が出なかった。
どうして私、こんなにいい人を……こんな、哀しい顔にさせてしまったんだろうか。
北「せやから、ほら……。泣かいんといてや?」
ひたすらに、優しく。
撫でられる箇所の感触が……。
凶器なほどに優しくて……。
泣いちゃダメだとわかってるのに。
溢れて、止まらなかった。
それから、大分経ってから。
もう何が何だか分からなくなってきた私は、北さんの一言でやっと顔を上げた。
北「おおきにな……」
あなた「……なん、で」
どうして私なんかに……こんな、傷つけてばかりの私なんかに……感謝の言葉なんて言うの……?
北「水族館行った日、覚えとるか?」
あなた「水族館……」
そうだ、5人で行った、あの日……ちゃんと北さんと、話した日。
北「あの時なぁ……あなたが覚えとるかは分からんけど……俺の事、“私も見てます”って、言うてくれたやろ?」
あなた「……はい」
試合の話になって、北さんの頑張りを見てるって、話した時だ。
北「俺な、自分で思っとる以上に、あの言葉に救われたんやと思う。神さんが……俺にとっての神さんが、ここにも居ったんや……って」
頭を撫でながら、儚く笑う。
北「……好きやで。あなた」
あなた「~っ//……でも」
北「ええんよ。もう……」
あなた「……?」
北「突き放さんでええ。……いうか、なんぼ酷い言葉言われても簡単に離れんで?」
目を細めて、やっぱり儚く笑って……。
北「せやから、もうええねん。この先あなたが誰かに惚れたり、付きおうたりしても……いつか奪い返したるさかい」
あなた「……、」
北「自己満足でええんよ。応えて貰えんでも、好きやねんから。…………せやなぁ、俺がまた誰かに惚れるまで、好きでおらしてや?」
あなた「……」
私の答えを聞かないまま、ポンポンと2回頭の上で手を動かして立ち上がった。
そして、出会った時のように私には勿体ないくらい優しく微笑んで。
北「ほなら行こか。、____てんとう虫ちゃん」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。