西谷𝓈𝒾𝒹𝑒.°
『いい加減解放してやれよ』
西谷「…………」
黒尾「……なんも、言わねぇんだな」
上手く返事ができなかった俺を見て、はぁっとため息をついた。
しばらく俺の言葉を待っていたように思えたけど、「もう、いーわ」と突き放すように言って、食堂の方に戻って行った。
『本気で考えられねぇんなら』
……考えてんだ。
考えてるから、こんなにも悩んでんだ。
ちょっと好きかも、とか、そんな軽い気持ちで行って良い相手じゃねぇ。
そのくらいちゃんと、俺でも分かってる。
でも俺を慕ってくれてる今、あなたを手放せずにいるのは事実だ。
端からしたら……あなたを好きなやつらからしたら、良い迷惑だよな……。
……でも、それでも一緒にいたいって思うってことは……。
これは、きっと……。
あなた𝓈𝒾𝒹𝑒.°
西谷先輩……遅いなぁ。
一緒に自主練を終えて、先に食べててと言ってトイレに行ったきり。
食べててとは言われたけど、一緒に食べたいし……。
目の前に置いた炒飯を眺めながら、先輩の帰りを待った。
ガガッ
あなた「!せんぱ____」
やっと隣の椅子が動いて、自然と笑顔になった。
横を向いた私の目に飛び込んできたのは、西谷先輩じゃなくて……。
黒尾「悪かったな。お目当ての相手じゃなくて」
あなた「え、黒尾さん……?」
机にお盆を置くと、躊躇なく椅子に腰かけた。
そこ、西谷先輩が座るのに……。
移動しよっかな。
キョロキョロと周りを見渡して、2つ空いているところを探す。
黒尾「「西谷先輩」なら、来ねぇよ」
あなた「_____、?」
なんで、私が西谷先輩のこと待ってるって知ってるの……?
それに……。
あなた「……来るよ。約束してるもん」
先輩は、約束を破るような人じゃない。
黒尾「さー?愛想つかされたんじゃねぇの。なぁそれよりさ~____っ、!?」
あなた「……っ、…………!?」
なんでそんな意地悪言うんだろうと、不機嫌になっているとフワッと視界が暗くなった。
片手で目を覆われて、クイっと後ろに引かれる。
?「……あなた、わり」
……ほら。
やっぱり。
声で分かる。
あなた「西谷先輩……いえっ」
やっぱり、約束を破るような人じゃないもんね。
黒尾𝓈𝒾𝒹𝑒.°
西谷「移動しようぜ」
あなた「……はいっ!」
スッとあなたの盆を持ち上げると、奥の方を指差した。
黒尾「……」
西谷「……」
“本気だから”
そう目で訴えるように、俺を睨んだ。
あなた、俺は忠告したからな……。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。