第372話

やっぱり女の子
32,315
2020/06/07 00:23
……今2セット目の中盤、くらいかな……?



大丈夫だろうか。



澤村先輩には「大丈夫」なんて不確実な声をかけたけど、実際とても心配だ。


澤村先輩という主将が抜けた今、烏野の守備は一気に落ちているはず。


今まで当然のように上がっていたボールが、急に上がらなくなって……。



澤村「…………ん、」


あなた「!」



いつの間にか眠っていた先輩がピクッと動き、目を開けた。



澤村「…………、」


あなた「先輩……痛みますか?」


澤村「いや……大分良い」


あなた「……」


澤村「…………」




あれ、手、離してくれないの……?


しっかりと握った手を離さないまま、ぼーっと天井を見つめる先輩。




澤村「ありがとな、」


あなた「え?」


澤村「……1人だったら、寝れてなかった」


あなた「……いえ」



ゆっくり目を閉じて、手をにぎにぎと動かし、頬を緩めた。



澤村「ふ……」


あなた「?なんで笑って……?」



何かおかしいことでもしただろうか。



澤村「あぁ、いや……すまん」



首を振るので「気になります」と問い詰めると、握った手を緩めてまたしっかりと繋ぎ直した。



澤村「お前ってさ……手、やけるよ。ほんとに……バレーのことになると止まんねぇし」


あなた「う"……い、いつもご迷惑を」


苦い顔で謝ると、また笑った。


澤村「そんなお前が……「支える」って言って側にいてくれて、やっぱりどっか、周りより大人びてるとこあるんだなって……」
  

あなた「……、」



これって褒められてるん、だよね?

なんか、こそばゆい……。



澤村「なのに……」



澤村先輩はこっちを見上げて、握った手にまた力を入れた。



澤村「……こんなに手、小さいんだなって」   


あなた「〜っ、」

   
その虚なめで見据えられ、触れた部分が一気に熱くなった。



澤村「やっぱ……女の子なんだな、」


あなた「……/」



なに、これ……。


熱い。


今の今までなんてことなかったのに、触れてるとこが熱くて仕方がない。



澤村先輩が起き上がるのと同時に手が緩んで、そっと離した。



あなた「しっ、試合の様子、見に行きますか!」


澤村「……そうだな、」





入り口から覗くと、2セット目の終盤だった。

一点差でリードしている。

向こうのサーブミスでマッチポイント。



頑張れ…………。



1番さんのフェイントで点を取られ、また点差が詰まる。


相手のサーバがネットインし、西谷先輩が乱して上げる。


日向が助走に入って。


あなた「、焦ってる!」


カゲくんのトスに合わずに、咄嗟に左手で処理した。


あなた「日向落ちついt_____」


縁下「日向ぁぁ!」


あなた「!」

澤村「!!」

 
後衛の縁下先輩が、バッと両手を広げた。


縁下「バタバタしない!良いジャンプは!?」


日向「!!良い助走から!」



澤村「_____、」


隣で、澤村先輩は確かに、息を漏らした。

大丈夫だと、確信したから。


相手1番のスパイクが、日向の指先を弾いてコート後方に向かって飛ばされる。



またブロックアウト……!



いつもなら、ガラ空きの後ろに吸い込まれるように落ちるはずのボールは……。



バシュッッ


あなた「!!」



待っていたかのように下がっていた縁下先輩によって、上げられた。


速攻で、日向が飛び出す。


ブロックの合間を切り抜けて、ボールは相手の腕で弾かれた後、後方に静かに落ちた。



ピッ……ピーーーーッ


縁下「_____よっ、」



「「「「しゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」




勝った……。


また、次に進める……!!



ボールかごを押しながら戻ってくる皆が、こっちに気がついて駆け寄ってきた。



澤村「あー、えっと……すまん」


途端、皆の顔がフワッと緩んだ。


菅原先輩に猛烈な腹パンをされながら苦笑して、心配する田中先輩に「試合前より元気だ」と伝えて、皆をギャラリーに誘導した。



やっぱり烏野の主将は、澤村先輩の他にいないなぁ……。

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