……今2セット目の中盤、くらいかな……?
大丈夫だろうか。
澤村先輩には「大丈夫」なんて不確実な声をかけたけど、実際とても心配だ。
澤村先輩という主将が抜けた今、烏野の守備は一気に落ちているはず。
今まで当然のように上がっていたボールが、急に上がらなくなって……。
澤村「…………ん、」
あなた「!」
いつの間にか眠っていた先輩がピクッと動き、目を開けた。
澤村「…………、」
あなた「先輩……痛みますか?」
澤村「いや……大分良い」
あなた「……」
澤村「…………」
あれ、手、離してくれないの……?
しっかりと握った手を離さないまま、ぼーっと天井を見つめる先輩。
澤村「ありがとな、」
あなた「え?」
澤村「……1人だったら、寝れてなかった」
あなた「……いえ」
ゆっくり目を閉じて、手をにぎにぎと動かし、頬を緩めた。
澤村「ふ……」
あなた「?なんで笑って……?」
何かおかしいことでもしただろうか。
澤村「あぁ、いや……すまん」
首を振るので「気になります」と問い詰めると、握った手を緩めてまたしっかりと繋ぎ直した。
澤村「お前ってさ……手、やけるよ。ほんとに……バレーのことになると止まんねぇし」
あなた「う"……い、いつもご迷惑を」
苦い顔で謝ると、また笑った。
澤村「そんなお前が……「支える」って言って側にいてくれて、やっぱりどっか、周りより大人びてるとこあるんだなって……」
あなた「……、」
これって褒められてるん、だよね?
なんか、こそばゆい……。
澤村「なのに……」
澤村先輩はこっちを見上げて、握った手にまた力を入れた。
澤村「……こんなに手、小さいんだなって」
あなた「〜っ、」
その虚なめで見据えられ、触れた部分が一気に熱くなった。
澤村「やっぱ……女の子なんだな、」
あなた「……/」
なに、これ……。
熱い。
今の今までなんてことなかったのに、触れてるとこが熱くて仕方がない。
澤村先輩が起き上がるのと同時に手が緩んで、そっと離した。
あなた「しっ、試合の様子、見に行きますか!」
澤村「……そうだな、」
入り口から覗くと、2セット目の終盤だった。
一点差でリードしている。
向こうのサーブミスでマッチポイント。
頑張れ…………。
1番さんのフェイントで点を取られ、また点差が詰まる。
相手のサーバがネットインし、西谷先輩が乱して上げる。
日向が助走に入って。
あなた「、焦ってる!」
カゲくんのトスに合わずに、咄嗟に左手で処理した。
あなた「日向落ちついt_____」
縁下「日向ぁぁ!」
あなた「!」
澤村「!!」
後衛の縁下先輩が、バッと両手を広げた。
縁下「バタバタしない!良いジャンプは!?」
日向「!!良い助走から!」
澤村「_____、」
隣で、澤村先輩は確かに、息を漏らした。
大丈夫だと、確信したから。
相手1番のスパイクが、日向の指先を弾いてコート後方に向かって飛ばされる。
またブロックアウト……!
いつもなら、ガラ空きの後ろに吸い込まれるように落ちるはずのボールは……。
バシュッッ
あなた「!!」
待っていたかのように下がっていた縁下先輩によって、上げられた。
速攻で、日向が飛び出す。
ブロックの合間を切り抜けて、ボールは相手の腕で弾かれた後、後方に静かに落ちた。
ピッ……ピーーーーッ
縁下「_____よっ、」
「「「「しゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」
勝った……。
また、次に進める……!!
ボールかごを押しながら戻ってくる皆が、こっちに気がついて駆け寄ってきた。
澤村「あー、えっと……すまん」
途端、皆の顔がフワッと緩んだ。
菅原先輩に猛烈な腹パンをされながら苦笑して、心配する田中先輩に「試合前より元気だ」と伝えて、皆をギャラリーに誘導した。
やっぱり烏野の主将は、澤村先輩の他にいないなぁ……。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。