明日から合宿だ。
球技大会以来、鬼心配性のお兄ちゃんに家に閉じ込められて部活には行けてなかったから、久しぶりに皆に会える。
体調は万全に回復した。
また皆のバレーを見れるのが楽しみだし、何より西谷先輩に会うことができるのが1番の幸せだった。
月島くんにも、お礼言わないとな……。
夜、着信音が鳴って携帯を見ると、懐かしいアカウントからの連絡だった。
ラーメンを食べに行った日、そういえば今度連絡するって言われてたんだっけ……。
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会う……?
英と、私が……?
付き合っていた頃と同様、無駄な絵文字も単語も使わないメッセージに懐かしさを覚えた。
意義の分からないやりとりはすぐ終わって、私は既読をつけただけで返さなかった。
英とは、ちゃんとケリをつけたつもりだったんだけどな……。
日向「あなた~!!久しぶりっ!」
体育館に入ると、日向がボールを持ったまま笑顔で駆け寄ってきた。
それに気がついて他の皆も寄ってくる。
澤村「体調大丈夫か?」
田中「心配性っすねぇ大地さん!」
あなた「はい!もうすっかり……ほんとは治りきってたんですけど、お兄ちゃんに外出禁止されて……」
苦笑して返すと、澤村先輩は「あぁ」と納得したように笑った。
菅原「俺らに会えなくて寂しかっただろ~?」
あなた「もう断食より辛かったです!」
即答すると大笑いして、よしよし、と頭を撫でられた。
菅原先輩の手は、お兄ちゃんとちょっと違う。
男の人の手みたいにゴツゴツはしていなくて、しなやかな優しい手だけど、大きく包み込むように撫でてくれるその手はやっぱり男の人の手なんだと思わせる。
西谷「あなた~!ローリングサンダー進化したんだぜ!!」
ブンブンと手を振って自己主張をしたのは、1番会いたかった西谷先輩。
あの日と同様の呼び捨てに安心した。
あなた「ほんとですか!?見たいです!おねしゃす!」
西谷「あなたはほんといい子だなぁ~」
縁下「よかったなぁ慕ってくれる女の子がいて」
西谷「おう!」
嬉しそうに無邪気に笑う西谷先輩を見て、皆で微笑む。
あぁ、帰ってきたんだと、思った瞬間だった。
練習終盤、武田先生と清水先輩と私が抜けて、先に合宿所へ移動した。
晩御飯を作るために食材を買い込んで、趣のある建物へ入る。
武田「岩泉さんが泊まるのはここの部屋ですね~」
お風呂やトイレ、部屋の場所を案内されてから食堂へ入室した。
清水「あなたちゃん、料理できる方?」
あなた「簡単な料理ならいくつかは……」
料理より、どっちかっていうとお菓子作りの方が得意なんだけど。
無難にカレーを作ることになり、3人で協力して作っていく。
武田「岩泉さん、球技大会大活躍だったみたいですねぇ」
あなた「っ!いえ!!部の皆が練習に付き合ってくれたから……」
清水「あなたちゃんが部活休んでる間、皆ずっとあなたちゃんの話してたんだよ」
ジャガイモの皮を向きながらニコッと笑ったエプロン姿の清水先輩は、あぁ、お嫁さんにしたい……って思うくらい綺麗。
あなた「そうなんですか!?」
皮を剥ききったジャガイモを渡されて、切っていく。
武田「日向くんがライバル視してましたねぇ」
目尻を下げて武田先生が嬉しそうに呟く。
清水「特に西谷は、あなたちゃんの最後のレシーブが最高だったってもう何回も」
あなた「へ…………へぇ」
平然を保ちながらも心の中はもう今世紀最大に荒れていた。
私の話を、西谷先輩がしてくれてたんだ……!
胸が弾む。
これから3泊4日の合宿。
なにか進展するといいなぁ……。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。