第354話

彼女だから
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2020/05/25 22:38
目を開けると。



あなた「!~っ月島くん……!」



すぐに飛び込んできたのは、ホッと顔を緩ませたあなた。


どうしてここにいるんだ……?


西谷さんのとこに行ったんじゃ____。



……というかここ、どこ…………?



僕の疑問に答えるように、上げた腰をゆっくり下ろしながら言った。



あなた「保健室……。熱、39度もあったんだよ?」


月島「………………今、何時?」


カーテンは閉まっていて、いつもなら聞こえるはずの野球部やサッカー部の掛け声が聞こえてこない。



あなた「えっと……8時半、」


月島「!?……な、なんでキミ、ここに…………」



体を起こしてすぐに、額に濡れタオルが置いてあったことが分かった。


あなたはキョトンとして、首を傾げる。



あなた「なんでって……月島くん倒れちゃったから」


月島「そういう意味じゃなくて……西谷さんの誕生日は?」



尋ねると、視線をそらしてへらっと笑った。



あなた「行かなかった」



……なんで。


じゃあ僕は、なんのために……?



眼鏡を探そうと手を動かして、異変に気がついた。



月島「~っ、//な、なんで握って……!」



しっかりと繋がった手は熱のせいか少し汗ばんでいて。


急いで振り払うと、あなたはなぜか吹き出して笑った。



あなた「自分で握ってきたくせにぃ~」


月島「…………は?」




僕が……自分で?



そんなこと、あるわけ……。




月島「それでも振り払って、西谷さんとこ行けばよかったでしょ。いつ起きるかもわからないのに……なんでチャンス無駄に____っ、」




混乱してペラペラと喋ってしまった口を覆った。


あなたは驚きもせず、ただ柔らかく笑って。



あなた「……やっぱり」



僕の手を再度握って、さするような仕草をとった。



やっぱりって……。




あなた「月島くん、私のためにあんなこと言ったんだよね……?酷い振り方したのは、私に踏ん切りをつかせるため……」


月島「…………」




鈍感なくせに。



どうしてこういう所で頭が回るんだ?





月島「……違うよ。嫌いだから別れてって言っただけ。だから……今からでも、」




8時半なら、そこまで時間は経っていない。


今から連絡して会う事もできるから。




だから、だから頼むから……。




これ以上一緒にいたら、僕の諦めがつかなくなるから。






あなた「……行かないよ」



月島「なんで、」






あなた「私は、月島くんの“彼女”だから」








違う。





違うんだ。





こんな偽物の、偽善の、装いだけの関係……。






月島「昨日、終わらせたでしょ」




あなた「……私、返事してないもん」




月島「!」




唇を尖らせたその表情は、少し怒っているようにも、笑いそうになっているようにも見受けられた。




あなた「……月島くん。私のこと……ほんとに嫌い?」




そしてすぐに哀しく目を細めた。



嫌いなわけない。



だから、離れたっていうのに。




月島「………………」





答えられない僕の手をキュっと両手で握って、離さない。




きっとその熱と、風邪の熱のせいだ。



“好きなんだ”。





月島「______好き、なんだ」






言いたいことと心の中の言葉、そして発した台詞が全部揃った。



僕の発言に頬を緩めると、「ふふ、」と息を漏らしてベッドの端に頭を埋めた。



そのまま顔をこっちに向けて、上目使いで。







あなた「これからも、よろしくね……?」







今までで1番、可愛く愛しく笑うから。





月島「~っ/////」





返事をうやむやにして再度布団を被った。



そんな僕を見て声を出して笑った。











……あなた。




もし、もし……僕が風邪なんて引いてなかったら。




僕がもっと、頭の良い別れ方をしたのなら。





キミは、今頃西谷さんと____。






途中で考えるのは、止めにした。




布団から顔を出して、安堵したのかスースー寝息をたてているあなたの頬にキスを落とした。


スカートのポケットから覗くあのリストバンドが目に入り、その胸の痛みに誓って。








月島「……もう絶対、離さないから」








そう、呟いた。

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