目を開けると。
あなた「!~っ月島くん……!」
すぐに飛び込んできたのは、ホッと顔を緩ませたあなた。
どうしてここにいるんだ……?
西谷さんのとこに行ったんじゃ____。
……というかここ、どこ…………?
僕の疑問に答えるように、上げた腰をゆっくり下ろしながら言った。
あなた「保健室……。熱、39度もあったんだよ?」
月島「………………今、何時?」
カーテンは閉まっていて、いつもなら聞こえるはずの野球部やサッカー部の掛け声が聞こえてこない。
あなた「えっと……8時半、」
月島「!?……な、なんでキミ、ここに…………」
体を起こしてすぐに、額に濡れタオルが置いてあったことが分かった。
あなたはキョトンとして、首を傾げる。
あなた「なんでって……月島くん倒れちゃったから」
月島「そういう意味じゃなくて……西谷さんの誕生日は?」
尋ねると、視線をそらしてへらっと笑った。
あなた「行かなかった」
……なんで。
じゃあ僕は、なんのために……?
眼鏡を探そうと手を動かして、異変に気がついた。
月島「~っ、//な、なんで握って……!」
しっかりと繋がった手は熱のせいか少し汗ばんでいて。
急いで振り払うと、あなたはなぜか吹き出して笑った。
あなた「自分で握ってきたくせにぃ~」
月島「…………は?」
僕が……自分で?
そんなこと、あるわけ……。
月島「それでも振り払って、西谷さんとこ行けばよかったでしょ。いつ起きるかもわからないのに……なんでチャンス無駄に____っ、」
混乱してペラペラと喋ってしまった口を覆った。
あなたは驚きもせず、ただ柔らかく笑って。
あなた「……やっぱり」
僕の手を再度握って、さするような仕草をとった。
やっぱりって……。
あなた「月島くん、私のためにあんなこと言ったんだよね……?酷い振り方したのは、私に踏ん切りをつかせるため……」
月島「…………」
鈍感なくせに。
どうしてこういう所で頭が回るんだ?
月島「……違うよ。嫌いだから別れてって言っただけ。だから……今からでも、」
8時半なら、そこまで時間は経っていない。
今から連絡して会う事もできるから。
だから、だから頼むから……。
これ以上一緒にいたら、僕の諦めがつかなくなるから。
あなた「……行かないよ」
月島「なんで、」
あなた「私は、月島くんの“彼女”だから」
違う。
違うんだ。
こんな偽物の、偽善の、装いだけの関係……。
月島「昨日、終わらせたでしょ」
あなた「……私、返事してないもん」
月島「!」
唇を尖らせたその表情は、少し怒っているようにも、笑いそうになっているようにも見受けられた。
あなた「……月島くん。私のこと……ほんとに嫌い?」
そしてすぐに哀しく目を細めた。
嫌いなわけない。
だから、離れたっていうのに。
月島「………………」
答えられない僕の手をキュっと両手で握って、離さない。
きっとその熱と、風邪の熱のせいだ。
“好きなんだ”。
月島「______好き、なんだ」
言いたいことと心の中の言葉、そして発した台詞が全部揃った。
僕の発言に頬を緩めると、「ふふ、」と息を漏らしてベッドの端に頭を埋めた。
そのまま顔をこっちに向けて、上目使いで。
あなた「これからも、よろしくね……?」
今までで1番、可愛く愛しく笑うから。
月島「~っ/////」
返事をうやむやにして再度布団を被った。
そんな僕を見て声を出して笑った。
……あなた。
もし、もし……僕が風邪なんて引いてなかったら。
僕がもっと、頭の良い別れ方をしたのなら。
キミは、今頃西谷さんと____。
途中で考えるのは、止めにした。
布団から顔を出して、安堵したのかスースー寝息をたてているあなたの頬にキスを落とした。
スカートのポケットから覗くあのリストバンドが目に入り、その胸の痛みに誓って。
月島「……もう絶対、離さないから」
そう、呟いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。