あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°
3時2分前。
菅原先輩達と別れて約束のバルーンゲートに着いた私は、空き時間にたまったLINEを整理していた。
東京に来ていることは、勿論月島くんにも話してある。
少し微妙な顔をしていたけど、これといって何も言われなかった。
あなた「……//」
こういうことサラッとしちゃうんだよね、月島くん。
2人で食べることが当たり前みたいにしてきて、私にはそれがとても心地よい。
素直な気持ちを送ると、既読がついたまま返ってこない。
どうかしたのかな?
グイッ
あなた「!?」
急に後ろから腕を引かれて、振り向かされた。
引いてきたのはやっぱり黒尾さんで、なぜか慌てた顔で私を引き寄せる。
あなた「ぇ、なに_________」
「黒尾先輩写真撮ってくださぁぁぁい!」
「私の事も吸血して〜!!」
黒尾「あぁクソッ。あなた、ちょっと走るぞ!」
あなた「え!?」
背後からものすごい女の子の集団が迫ってきて、私は手を引かれるまま黒尾さんについていった。
やっと撒けたくらいで、黒尾さんは出し物がある教室棟の奥の別館前で足を止めた。
黒尾「ここなら見つかんねぇわ。中入ろうぜ」
あなた「立ち入り禁止って書いてあるけど……?」
黒尾「俺はいいの」
いや、良くはないでしょ。
まぁでも女の子達に見つかっても面倒臭そうだし、いっか。
三角コーンで閉ざされた階段への道を通り抜けて、3階の空き教室に入った。
黒尾「これ邪魔なんだよ」
マントをヒラヒラ動かして、その裏地の紅をちらつかせた。
首元のチェーンを外さないと脱げない仕組みになっていて、苦戦している。
黒尾「なぁ〜、見てないでこれ手伝って?」
あなた「あ、うん」
荷物を置いて、黒尾さんの首元に手を伸ばした。
あなた「……え、高い。しゃがんで?」
背伸びをしてもよく見えないからお願いすると、すんなりとしゃがんでくれた。
こんなマント、どこで買ったんだろ。
もしかして手作りかな……?
あなた「……あっ、はい!とれたよ〜」
やっとのことで固定していたところを外すことができて、離れようと左脚を後ろに下げたところで肩に両腕が乗っかった。
あなた「______、!?」
拍子にマントはストンと落ちて、物語に出てくる貴族のようなパキッとした服を纏った黒尾さんが、不適に笑っている。
あなた「ちょ、離れt______」
黒尾「……西谷に、なに言われた?」
あなた「……、」
やっぱり……。
黒尾さんは、何かを知っている。
西谷先輩が私に何を言おうとしているのかは分からないけど、黒尾さんは何かを知っているからこうして見抜いてくるんだ。
黒尾「言わねぇとずっとこのままだけど〜?」
悪戯っ子みたいに笑って、ハグをするように身を寄せてきた。
あなた「〜っ、やっ、ほんとに……!なにも、」
黒尾「ふぅん……?」
あなた「〜っ、!!なっ、近いって、//」
黒男さんのその低音が、吸血鬼コスから醸し出される大人の色気と相まって心臓がうるさい。
『何ヶ月……何年、何十年かかってでも』
『絶対、お前の"1番"になってやる』
あぁ……危険だ。
目を合わせているだけで、取り込まれそうなこの感覚。
早く離れないと_________取り返しがつかなくなってしまいそうで。
あなた「っ……、〜っ話がしたいって言われた!次の水曜に委員会の仕事あるからそこで話聞くことになった!それだけ!!」
声を張って思いっきり胸に手を当てて離れようとすると、案外すんなりと離してくれた。
黒尾「話……ねぇ。んで、どうすんの?」
あなた「……え?」
黒尾さんはマントを拾い上げて、何事も無かったかのように机に腰掛けた。
黒尾「いや、流石に分かるだろ。なに言われるか……」
あなた「や……、なんとなく、だけど」
西谷先輩の口振りからして、悪い話じゃないのは分かっていた。
だけど……。
あなた「……月島くんと、付き合ってるから」
私が、西谷先輩と付き合うとかは、無い。
黒尾「………………ツッキーと、付き合ってるから?」
あなた「……うん。月島くんと付き合ってるから、今他の人を見るっていうのは、違_____、なに?」
黒尾さんは、いつになく真剣な顔で私のそれを覗き込んだ。
何もかもを、見透かしたようなその目で____。
黒尾「……"ツッキーが好きだから"じゃなくて、"ツッキーと付き合ってるから"なんだな?」
あなた「……………え、」
言われて、全身の血管がキュッと縮んだ気がした。
あれ、私……。
あなた「……」
黒尾「それってさぁ……、付き合ってなかったら西谷んとこ行くってことだろ?」
足を組み替えて、私の様子を伺いながら続ける。
黒尾「つまり、本当はあいつんとこ行きたいけどツッキーとの関係があるから我慢してるって?」
あなた「ぃや……違、う」
自分ではっきりと、動揺しているのが分かる。
だけど、図星だからなんて思いたくなくて。
自分の本当の気持ちが______分からなくなった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。