第389話

コンクリート育ちの力
33,608
2020/06/21 12:25
あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°



バスから降りて、仙台市体育館の入り口へと向かう。



皆の足取りは心なしか重く、両側を歩いている日向とカゲくんもそれは同様だった。




『俺のいるチームが、最強のチームだからな』


『及川同様、ウチに来るべきだった』




ふぅ……と、息を吐く。


私が烏野にいること。


ここで感じた全てが、私にとって宝物だ。


だから……証明しよう。





菅原「牛若だ……」



呟いた菅原先輩の言葉を耳に入れながら、両側の2人が進んでいくので私も思わず足を進めていた。


先には、若くん。




影山「決勝まで来ました」


日向「コンクリート育ちの俺たちが、貴方をぶっ倒して全国へ行きます!」



牛島「______楽しみにしている。……」




凛とした立ち振る舞いを見せた後で、私に視線を移した。


そして後ろの皆を見遣って、再度こちらに視線を戻す。


一歩、そしてまた一歩、私は近寄り。


目の前まで来た若くんは軽やかな動きで私の髪に付いていた枯れ葉のカケラを掬って、言った。




牛島「……お前の選択が間違っていたと、証明しよう」


あなた「……こっちの台詞。証明するよ。私の選択は間違ってない。今日勝って最後に笑うのは、私たち烏野だから」




顎を突き上げて、若くんをただただ見据えた。




牛島「_______コートで会おう」




踵を返し、体育館に入っていく。



ふるふるっ、と、隣で日向の肩が震えた。




日向「くっそ……早く戦いてぇ!」




頬を赤らめて笑う日向に、私もカゲくんもふっと頬を緩ませた。





澤村「よし!絶対行くぞ春高っ!!!」


「「「「しゃぁぁああ!!」」」」








室内に入ると、中は大勢の人で賑わっていた。


白鳥沢や、烏野の制服もちらほらと見えて。


ご近所さんもいるし、見たことのない人も沢山いる。




宮城県の、頂点が……決まるんだ。




月島「……何選手より緊張した顔してるの」


あなた「ふぉっ、だから鼻摘まないでって!」



顔を覗き込んで軽く小鼻を摘んできた月島くんの手を払って、「緊張なんてしてないしっ」とそっぽを向いた。



?「あなた〜!」




どこからか呼ぶ声がして、振り向くと立っていたのは制服姿の友達6人組だった。




あなた「皆っ!来てくれたんだぁ〜!」



駆け寄るとニシシと笑って、「頑張んなよ!」と小突かれた。



あなた「頑張るのは選手なんだけどね……」



とりあえずお礼を言ってから、またギャラリーで会おうねと別れた。






上に荷物を置きに行って、皆が荷物の整理をしている間に辺りを見回した。



……まだお兄ちゃん、来てないなぁ。



来るって言ってたけど、でも気が変わっちゃったのかもしれない……。




いやいやっ、今は試合に集中……!






?「ははっ、何1人百面相してるんだ?」



あなた「!?」




頭をブンブン振っていた私に声をかけてきたのは、隣にいかにも位の高そうなスタッフさんとジャージ姿のお兄さんを携えたおじさん……おじ、さん?





あなた「さ……佐渡さんっ!?」




アナリストの講習会の時の、佐渡さんだった。




佐渡「烏野が決勝に進んだって聞いて駆けつけたよ。牛島くんもいるし、ね」



「まだ姿は見えないようだけど……」と辺りを見渡して、私に微笑みかけた。



「佐渡さん、どうぞコート横の席でご観覧ください」



スタッフさんに手をこねられて、「あぁ」と軽く返事をした。




佐渡「それじゃ……期待してるね」




大人の笑みを浮かべて、客席から降りていった。





?「あなたっ!」



あなた「!」





突然の再会に呆然としていると声をかけられ、勢いよく振り向いた。



そこにいたのは西谷先輩で、心配そうな顔で私を見つめた。
 





西谷「もう皆降りてってるぞ?……緊張でもしてんのか?」



あなた「あ…………いや、」







やっぱり話すのは少し抵抗があって、それが私の気持ちの不安定さから来ていることは明白だった。





もう少し……もう少しで、西谷先輩を忘れられるから。




ちゃんと、先輩と後輩に……なれるから。






だから、もう少しだけ…………。








西谷「なぁ……今、聞いてもいいか?」






あなた「………なん、ですか?」






西谷「俺が…………“付き合いたい”の好きを伝えたら_____あなたはどうする?」






あなた「_________、え?」







何を、言ってるの……?


だって、だって西谷先輩にとって“付き合いたい”の好きは、清水先輩に向けられた物だったはず……。






だから私は、あんなに追い込まれて、あんなに泣いて。





なのに_______。









西谷「…………なぁ、月島と……付き合ってるのか?」





続けて発せられた質問に、私はゴクリと喉を鳴らした。

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