椋樺「ぁ、いたいたっ、岩泉さぁ~ん」
……来た。
さくら「っあなた……」
怖がりながらも、私を庇うように前に立ってくれたさくらに、涙が出そうになった。
必死に押さえて、その前に出る。
綾乃「あなた、行っちゃダメ」
あなた「ううん。私もう自然に終わるのは待たない。話つけてくるから」
もう、笑顔を貼り付けることはできそうにない。
リオ「うける~泣いちゃってさ、たかが上履き隠されたくらいでっ」
サオリ「いいリアクション頂きましたぁ~」
リオ「次はなにしよっかぁ」
あなた「用件は?」
楽しそうに話すのを遮って、声のトーンを落とした。
椋樺「……分かったでしょ?あんたが素直に言うこと聞かないから大事な"オトモダチ"があんな目にあったの」
……それは、事実だ。
さくらの泣いている顔、震える肩、私に隠そうと必死に擦って赤くなった目を思い浮かべて、沸々と怒りが込み上げてきた。
椋樺「それでね、あんたが私の出す賭けに乗ったら、もう誰にも手は出さないから」
あなた「……賭け?」
復唱すると、リオが笑顔でパンっと手を叩いた。
リオ「球技大会でケリをつけよう!ってワケ!!」
あなた「球技大会……」
サオリ「うちら3人ともバレー選択して同じチームなんだけど、決勝まで上がったらあんたのチームと当たるの」
椋樺「第1条件はまずそこまで上がってくること、そしてあんたが勝ったら、もう何も言わない。その代わり負けたら、バレー部を辞めて、部の人達との関わりも全部切って」
あなた「いいよ」
リオ「だから聞き分けないなぁ!!っ、て_____」
昨日の私のように適当に受け流すと思ったのだろう、用意していたようにキレるリオが、目をかっぴらいた。
椋樺「なに、やっぱり友達は大事っての」
あなた「私が賭けに乗った時点で、私の周りの人に手を出さないっていうのは成立だよね」
サオリ「うん。そうなるね。あんたが逃げなかったら、ね」
あなた「うん、逃げないよ」
今日初めて、この3人に向けた笑顔には確実に怒りが込められていて、少しビクついたのを見てほんの数ミリだけスカッとした。
角を曲がったところに人影が1つ。
あなた「……山口くん。立ち聞きは良くない」
山口「わわっ!……ご、ごめ、ん」
あなた「……まぁ、心配してくれたんだよね。ありがとう」
山口「ね、ねぇ。大丈夫、なの?あんなすんなりOKしたけど、勝ち残れる、かな……そりゃ俺とツッキーはチームにいるけど、男子はスパイク禁止だし……」
あなた「……さぁ、どうだろう。あの子達中学バレー部で頭張ってたらしいし」
山口「えぇ!!?そ、そんなの……負けちゃうよ」
あなた「かもね」
山口「え!?でも負けたら、バレー部辞めなきゃいけないんだよ!?それに関係も切るって……」
あなた「……ごめん。多分、辞めることになると思う」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。