侑「自分、バレー出来るんかっ」
あなた「ぅえ、いや、出来るっていうか……球技大会でちょっとかじった程度で……ほんとポンコツなんですけど」
治「?バレー部とちゃうん……?」
手を話した私の代わりに自分でストレッチをしながら、治さんが首をかしげた。
あなた「バレー部……なんですけど、マネージャーで」
侑「!…………ちょ、こっち」
あなた「ふぇっ?」
後ろに回って背中を押され、コートに入れられた。
侑「打ってみ、俺のトス」
あなた「………………………………っ私が!?」
侑「他に誰がおんねん」
なんで私が……。
とりあえず跳んでみと言われ、助走をつけて跳ね上がった。
侑「っ!……ふ、ネットから手ぇ出るな」
そう言って不適な笑みを浮かべると、葛西さんにボールを渡した。
葛西「ほんまにやるんか……」
嗚呼…………もう、こうなったらやるしかない。
葛西「いくで~」
侑「おーけーです」
あなた「……お願いしぁす」
向こうのコートから葛西さんに、「俺には当てんでくれぇよ」と言われて「当てたらすみません」の意味で頭を下げた。
葛西「ほれっ」
侑「よっ」
キュッ……
あなた「っ、!?」
ドゴォッ!!!
葛西「はっは、こいつぁすげぇ」
ボールは床に叩きつけられ、ステージの方へ上がっていった。
葛西さんが取りに行ってくれる。
侑「ふぅん……?」
あなた「……あの、侑さん……今」
侑「ふっふ、」
恐る恐る尋ねに行った私に、目を細めて笑う。
やっぱり……。
さっき飛んで見せた時より、確実に高い位置にボールを持ってきた。
ミスかなとも思ったけど……。
侑「跳べたやろ」
あなた「やっぱりわざと……ですよね」
侑「よぉ分かったなぁ……。____っ、」
そう言って、褒めようと思ったの私の頭の方に伸ばしたその手を止めて腰に当てた。
侑「なん?やっぱ手ぇ抜いて跳んでたん?」
そして次は、少しぎこちない笑顔を向けられた。
その笑顔に多少の疑問を持ちながらも、答える。
あなた「……いや、なんか…………いつもより“見えた”から」
侑「……“見えた”??」
……あ、そうだった。
コーチにも言われたけど、全員がコートの向こう側が鮮明に見えるわけではない。
見える前提で話をしていいのは日向とだけだと。
あなた「なんでも、ないです」
侑「とにかく、お前は「ポンコツ」やないで」
あなた「……え?」
侑「俺のトス打てとるわけやしな」
あなた「それは……侑さんのトスが良いだけで」
逆にポンコツの私が打てたんだからそれだけトスの精度が高いというか……。
治「負けとれん。ツム、トス寄越し」
復活した治さんが戻ってきたので、入れ替わって私は元の位置に座り直した。
侑𝓈𝒾𝒹𝑒.°
侑「……サム、どんな?」
今日の夜間は終わって、片付けをしながら葛西のおっちゃんと話しとるあなたを見た。
治「微妙やな。ツムは?」
侑「……俺もや」
治「せやけど、俺は割りと気に入ったで」
侑「!」
……ほんま、珍しぃな。
侑「土曜」
治「?」
侑「呼ぼう思てる」
治「……ええんちゃう。俺は飯食えりゃええ」
ほんま、サムはサムやな。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。