第286話

‥また明日‥
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2020/05/01 10:57
『抱き締めちゃ、ダメか……?』





あなた「だk__っ、ぅぇ……!?//」



今……今、抱き締めるって言った……の?


西谷先輩は、それでも尚苦しそうに顔を歪めた。



西谷「…………その沈黙は、いいってことか……?」


あなた「ぇ、ぃゃ……その、えと……」




触れられているところが熱い。


血が沸騰どころか蒸発しそうだ……。




あなた「~っ…………」



しどろもどろする私をまっすぐ見つめる先輩の目に、小さく頷いた。


首の後ろに回った手に、力が入る。


そのまま引き寄せられて____。




<~♪:*o>



あなた「!!!?」


西谷「!?」



私の携帯が、大音量でそれを妨げた。




あなた「ぁ……ごめん、なさい」


とりあえず画面を見てみると、


【着信中:お兄ちゃん】


……。




西谷「いいよ……出て」



スッと私から手を離し、顔を背けた。



あなた「…………もしもし」


岩泉<あなた!お前いつ帰ってくるんだ!!>


あなた「ん……もう少しで着くから……」


西谷𝓈𝒾𝒹𝑒.°




あなた「えぇっ!?いいよ!ほんとに……もう着くし、1人じゃないから……」




なんだ、今の……。


あなたを、無性に抱き締めたいって思った。


あの写真のやつらに触られたんなら、その分俺が触れたいって……。



なんだ、なんだこれ……!



分かんねぇ……。




あなた「うん……うん、ほんとに、迎え来なくて平気だから……だからカゲくんじゃないってば!……うん、了解。すぐ帰るから、うん__」



電話の対応に追われているあなたを見て、また視線を落とした。



……何なんだよ……この気持ち。



胸が……いってぇ……。




あなた𝓈𝒾𝒹𝑒.°



迎えに行くって聞かないお兄ちゃんを何とか説得して、電話を切った。



あなた「すみません……」



頭を下げると、西谷先輩はぎこちない笑顔を私に向けた。



西谷「おぅ……!帰るか」



あなた「……」



そりゃ、当たり前か……。


でも心のどこかで、“抱き締めてほしい”つて、思っちゃった……。


こんなこと伝えたら、引かれるかな……。




あなた「私……もうすぐそこなので、ここで平気です」



これ以上一緒にいたら、どうにかなってしまいそうで。


キャリーバッグを受け取って、背を向けた。



あなた「……ありがとうございました」



震える声で、そう伝えると「おう……」と消え入りそうな声。



先輩は、私を「分かんない」って言ったけど……。



私の方が、先輩のこと分かんないよ……。



胸が苦しくて、何故か溢れてきそうな涙を堪えながら歩いた。



後ろの方で、先輩も歩き出した気配がした。



明日、ちゃんと話せるかな……。




タッ……タタッ


あなた「……?__っ!?」



不意に足音がすぐ近くに聞こえて、振り向いた。



ギュ……ッ



あなた「~っ!?//」



突然のことで、事態の把握に時間がかかった。



ただ、先輩の腕に包まれて、ギュっと強く抱き締められていた。



あなた「せんぱ……」



ギュゥゥ……



痛いほど、強く強く抱き締められる。



合わさった部分から、心臓の鼓動が伝わってきた。



2人のリズムがリンクして、重なる___。




しばらくして、



西谷「……わりぃ」



そう小さく囁いて、私を離した。



そして何がなんだか分からずに固まる私の額に、トンっと指を押し当てた。








西谷「___また、明日な」

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