ぶつかった女の子はペコリと頭を下げると、チェック模様のマフラーに顔を埋めて横を通っていった。
ヒラッ……
……あ、受験票落とした。
拾って声をかけようとすると、他の受験生の相手をしていたはずの2人が俺の手から奪い、駆けていく。
「ねぇっ、落としたよコレッ」
?「っあ、すみません。ありがとうございますっ」
男女問わず誰からも好かれそうな無敵笑顔を繰り出したその女の子に、2人は詰め寄った。
「ね!入学したらバスケ部のマネージャーになってよ!!」
「君めっちゃ可愛い!」
……だから余計な話をするなって言ってんだろうが。
「俺らスポーツ推薦でさぁ____」
そうやってひけらかすための推薦ではない。
恥ずかしいからやめてくれ……。
?「知ってますよ。聞いてたのでっ」
さっきの話を聞いていたようで、彼女はまたフワッと笑った。
「な、なら話早いねっ」
?「そうですねっ。嫌です」
「っ、え……?」
明らかにいい反応をしそうだった彼女は、表情は笑顔のまま正反対のことを言い放った。
「な、なんで……」
?「理由は2つありますっ」
口元のマフラーを押し下げると、反対の手で指を2本上げた。
?「1つ目。そもそもバスケにも貴殿方にも興味はありません。私はバレーが好きです」
突如聞こえた自分の部の名前に、俺は一層耳をすませた。
「そ、それを興味持って貰_______」
?「2つ目」
食い下がる言動に脇目もくれず、続けた。
?「好きなことのために必死に努力できる誰かを侮辱するような人が居る部活に、入りたいとは思えません」
先程の笑顔とはうって変わり人見の光を閉ざした彼女の言葉に、2人は喉を鳴らした。
「なんだよ、推薦の俺らの方がスゴいだろうがっ」
「ちょっと顔がいいからって調子乗るなよっ」
……あぁ見苦しい。
あの子の方がよっぽど大人だ。
いや、それよりも……。
?「貴殿方よりも、さっき話題に出ていた方のほうがよっぽどカッコいいです。____"何か好きなことに一生懸命になっている時が、その人が人生で一番輝いている瞬間だと思う"からっ______」
白布「っ、……」
この日1番の満面の笑みを浮かべて去っていった彼女の小さな背中から、目が離せなかった。
自分があまり歓迎されてないことは分かっていた。
周りは推薦組ばかりで、それでも俺はあの日、白鳥沢でセッターをしたいと、牛島さんにトスを上げたいと、思ってしまったから……。
俺にとっての、1番カッコいいバレー。
それをするために、誰よりも目立たないセッターになってやるって……。
だから周りの声も反応も、聞き流してきた。
その筈だった。
だけど俺は今日、名前も知らない年下の女の子に、確実に救われたんだ。
……0819番。
あった。
合格発表日、俺は自分から案内係に申し出た。
受験生より先に、張り出された掲示物を見てその数字を見つけた時は自分でも驚くくらい胸が踊った。
あの子が来たら、声をかけよう。
そして、マネージャーに誘おう。
それでいつか、「ありがとう」と伝えたい。
好きなことに一生懸命になる俺を、見ていてほしいと_________。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。