第93話

‥話聞いてた?‥
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2020/03/22 05:39
二口「じゃあさ、俺と付き合って」


あなた「え、話聞いてた?グミより耳鼻科に__っ、」



あぁ、なにこの目。


さっきまで意地悪するときの目だったのに、なんか急に真剣になっちゃって……。




二口「話は聞いてた。てか、聞いてからやっぱりあなたと付き合いたいと思った」

あなた「……私、好きな人が」

二口「今日俺と過ごして楽しかったでしょ?」

あなた「いや、別に」

二口「じゃあ嫌だった?死ぬほど帰りたいと思った?」

あなた「……や、そこまでは」


まぁグミ食べさせられたときは病院行きたいと思ったけど……。


堅治は笑って、私の手をギュッと握った。


二口「なら、いいでしょ?ほら……こうして手繋いだらドキドキする」

あなた「……してないもん」

二口「してるよ……ほら、ね?」


堅治は私の手ごと自分の胸に押し当てて、鼓動を聴かせてきた。

堅治の鼓動が、手から伝わってきてリンクする。


二口「あなたは……ほんとにしてない?」

あなた「っ、……してな、くも、ない……」

二口「ははっ……ならいいでしょ?」

あなた「……よくないよ」

二口「どうして……?」


確かに、堅治と話すのも過ごすのも楽しくなかったと言えば嘘になる。

でもこれからもずっと一緒に居たいかと言われたら……分からない。


それに……。


あなた「私、好きな人がいるから」


やっぱり「付き合う?」と言われて1番に思い浮かんだのは西谷先輩だった。

私が一緒に居たいのは、どう足掻いても彼なんだ……。


堅治は私の手を握ったまま俯いて、そして顔を上げた。

少し、清々したような顔だった。


二口「分かった」

あなた「うん……ごめ__」

二口「なら、次会うときまでに考えといて?」

あなた「へ?」


え、私今振ったつもりだったんだけど……?


あなた「あの、だから私今好きな人が__」

二口「うん、でもそれは俺と今日会ったばかりだったからかもしれないでしょ?ちょっと時間おいてみれば、俺と一緒にいたいかも、って思うようになるかもしれない」

あなた「…………それは」


ならない、なんて言えなかった。


堅治のすがるような、少し哀しみを含んだその目を、直視する事ができなかった。



二口「連絡先交換しようよ。次会うときのために」

あなた「……どこの誰とも知らないのに、連絡先交換なんてできな」


堅治は私の手を自分の口元に持っていく。


チュ……


あなた「っ、!?」


二口「伊達工業2年の、二口堅治。……これでどう?」


伊達工……。


怖い人達の宝庫じゃん……。


半ば無理矢理携帯を出さされて、連絡先を交換させられた。


二口「あ、あなたはどこ校?」


あなた「…………烏野」


そう言うと、心なしか少し笑ったように見えた。


二口「なら、いけるわ」

あなた「?どういうこと?」

二口「烏野相手に負ける要素ないって意味」



……いや、どういうこと。



ポカンとした私の顔を見て笑うと、「駅まで送るよ」と席を立った。

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